震災にもコロナにもジストニアにも負けない人
「3月11日」は過ぎてしまいましたが、今年はいつもと違う特別な思いで東日本大震災のニュースを見ていました。昨年の春から夏にかけて、福島県から吹奏楽部の高校生が通っていたのです。
クラリネットを担当するその子は左手のフォーカル・ジストニアと診断されていて、それでも大会を目指してがんばっていました。当初は力が入らず穴をふさげなかったり指が巻き込んだりしましたが、施術を重ねるにつれて動きが良くなり東北大会に進みました。
私も中高生の頃は吹奏楽をしていたので、遠路はるばる通ってくる生徒の施術に力が入らないわけには行きません。できることはすべてやって万全の状態で大会に臨んで欲しいと思っていました。
福島と言えば吹奏楽がさかんなことで有名です。勿来工業、平商業、いわき湯本そして磐城高校と全国大会レベルの学校が次々現れます。それだけ卓越した指導者が多く全体が底上げされているのです。東北大会から全国に上がる代表全てが福島県という年もありました。
2011年はそんな福島の吹奏楽にとって大きな試練でした。震災と原発事故の被害から避難生活をしながら学校に通ったり、あるいは転校、あるいは学校自体が廃校ということもありました。
そんな状況の中この年の全国大会で福島の磐城高校が登場すると、感謝と応援の入りまじった暖かい拍手で会場がつつまれました。優劣を競い合うコンクールの枠を超えて連帯をもたらした彼らの演奏は伝説となっています。
この演奏のころ今回の生徒は小学校に上がるかどうか。直接の関係はないけれども福島というだけで私はこのことを思い出してしまいました。
またこの子は中学の時のコンクールがコロナの感染拡大防止のために中止になった世代です。戦後1956年に再開された吹奏楽コンクールが初めて途絶えたのが2020年。前年が第67回大会で2020年は第68回、再開された2021年は第69回とされたため2020年の「第68回」は永久に開催されないまぼろしの大会となりました。
「鍼だけに頼ってもいけないと思って」
この生徒に言われて特に印象に残っている言葉です。演奏が症状に左右されないように力の入れ方や指づかいなどいかに工夫しているか話してくれました。震災やコロナでままならないことの多い学校生活だったと思いますが運命は自分で決める、強い意志を感じました。
高校生活最後の目標であった全国にはあと一歩及びませんでしたがこの人ならきっと大丈夫。そしてまた福島の吹奏楽も、後輩たちが奏でる音に私はずっと耳を傾ることでしょう。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師