コミュ力はASDに学ぶ
医療系の職種はコミュ力(コミュニケーション能力)が大事と言われます。この類の言葉として他にも、共感力、傾聴力などなど検索するといろいろ出てきます。
鍼灸師もこの種の力が必要と言われる職種です。人を相手にする仕事だからでしょう。技術職的な色合いがつよい一方で人の困りごとを解決するには相手の訴えを理解する必要があります。時には持っている技術の適用外なこともありますが、そう言えるためにも相手の訴えをまずは理解していなければいけません。あるいはそれ以前に訴え自体が理解できないこともありますが、理解しようとしていることは相手に伝えなければなりません。
そのように考えるとコミュ力、共感力、傾聴力、どんな言い方をしてもいいですが必要なのは他人を理解し、また理解(しようと)していると思わせる能力です。要するに感情の理解と表出の技術と言ってよいでしょう。とは言いつつ同じことをしても人はそれぞれ別な反応をするし、どうしたらよいか説明するのはとても難しい。
感情の理解と表出といえば自閉症(ASD)の人が苦手とするとよく言われます。研究によれば定型発達とASDでは脳内のミラーニューロンの働き方が違うそうです。苦労せずできている人は正常に働くミラーニューロンのおかげで他人の感情を理解できるわけです。どうやってるか知らないけどニューロンが勝手にやってくれる、そういうものを説明するのは難しいです。だからできてる人にどうやったらいいか聞いても納得のいく回答は得られません、多分。
『変わり者でいこう』(東京書籍)の著者ロビソンはASDの当事者ですが「人の心を読む能力には欠けているものの、しっかり観察する技術と論理的な分析によって、僕はその分を埋め合わせている」と言います。ASDの人みんなができることではないでしょうが示唆に富む話です。
またAIの開発では人の感情にまつわるデータラベリングが行われているそうです。膨大な量の顔写真や音声データにあらかじめ「嬉しい」とか「怒り」とかの感情をタグ付けしておき、それをAIに学習させるのですね。タグ付けは人力でやる必要がありますが、データさえあればどんな顔や声の時にどんな感情なのかパターンはAIが勝手に抽出します。
僕の場合覚えがあるのは外国語を学ぶ時に(特に現地で習得すると)その言葉を教えてくれた人の人格ごとコピーしてる気分になったことです。その人なりの善悪の境目、なにを美しいと思うのか、どんな時に喜びまた悲しむのか。中学の時の英語は「自分ならこんな会話しねえよ」で終わってましたが、大人になってからの語学では割り切ってコピーできました。先生は多分現地の平均的、常識的な良い人だったのだと思います。学んだように話せばわりかし期待どおりの反応が返ってきましたので。ただしコピーなので、相手が思っている僕の内面と実際の僕の内面がもしかしたら違ってたかも知れず、あれはちょっと不思議な体験でした。
どの場合にも言えるのは観察と分類が必要なことです。分類できるためには実践が必要です。応答の時系列で相手の反応がどのように変わるのか。AIと同じでデータが多くなればなるほど、NGな言葉やふるまい、逆にやると良いことがふるいにかけられてきます。他人のコミュケーションも観察の対象となります。ロビソンはASDの特徴であるこだわりと集中力を観察と分析に使ったそうです。
ということでコミュ力に自信がない人はASDぽいけど人とうまくやれてる人に聞いた方がいいかも知れません。あるいは将来AIがもっと発達したら、コミュ力はソースコードとして完全に言語化されているかも知れません。
その頃にはロボットの方がよっぽど気が利くということで人間にはコミュ力が求められてなかったりして・・・
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師