管楽器奏者の鼻抜けに関する医学症例
本番だろうがレッスン中だろうがいきなり演奏を強制終了させられる鼻抜け。
bodytune にも多くのご相談が寄せられています。
「鼻抜け」とは管楽器演奏時に口から楽器に入れるべき息が鼻から漏れることで楽器を鳴らせなくなる現象のことです。
これについて非常にしっかりとした医学症例報告をネット上に見つけましたのでご紹介します。
≫ 吹奏楽器演奏時における鼻咽腔閉鎖機能不全に対して上咽頭脂肪注入が奏効した例
症例の患者さんは音大生、構音(言葉の発音)に問題なし、軟口蓋挙上運動も問題なし、にも関わらず楽器(クラリネット)を吹くと息が鼻から漏れて演奏不能になるということで、咽頭後壁(鼻と喉の奥側の壁)に脂肪注入し盛り上げることでふさがりを良くし鼻抜けを治したというものです。
僕にとって興味深かったのはこの記述。
「口腔内圧は会話時 6mmHg であるのに対して吹奏楽器演奏時では 130mmHg と高いため,SPVI(鼻抜け)では通常の会話に支障がないにもかかわらず,口腔内圧が高い状態である吹奏楽器を演奏する時のみ,呼気が鼻腔に漏出し思ったように演奏できない,あるいは長時間吹き続けられないという症状が出現する.」(カッコ内は楠が付記)
日常会話と管楽器演奏では条件が異なること、したがって日常生活で問題がなくても管楽器演奏で支障をきたすことがあるとはっきり書かれています。
僕のところに鼻抜けでいらっしゃる方には口蓋裂など軟口蓋形成不全につながりそうな既往症の有無を必ずたずねていますが、今まで該当する方は1人もいませんでした。
また遠くに置いたろうそくの火を消すとか、パ行の発音をしてみるとかも試していますができなかった人はいません(風船のふくらましが苦手な人はいましたが)。
医療は日常生活に支障が出るくらいのものを扱いますから理解ある医師に出会わないと「異常ありません」と言われ終わってしまいます。
そう言われると楽器の先生は奏法の問題と考えざるを得ないのであれこれ指導しますが、そもそも問題はそこじゃないかも知れないわけです。
結果として鼻抜けは医療からも教育からもきちんとケアされていない領域な気がしていました。
「海外では吹奏楽器演奏者の31~39%がSVPI 症状を経験したことがあり」
というこの数字は日本でもそうなのかどうか分かりませんが、隠そうとする人もいますし実際に想像以上に多いのだと思います。
歯列矯正がOKなら鼻抜けに手術という方法もありではないでしょうか。
ただし適用については慎重に検討する必要があります。
この論文でもそこは明確であり、楽器演奏時の軟口蓋の動きと息が漏れる様子を実際に内視鏡で確認し、咽頭後壁の盛り上げで症状消失するかどうか生理食塩水で確認する念の入れようです。
やはり鼻抜けに取り組んでいる別の病院の話では、若い奏者の場合、成長とともに喉の奥の形が変わる可能性があるのであえて手術を見送ったと聞いたこともあります。
また手前みそながらbodytuneでも鍼灸で鼻抜けに取り組んでおり公開中の症例もあります。
鼻や喉の奥の緊張が関与している鼻抜けの場合は鍼で改善することが多いです。
問題が鼻や喉の奥にあると言ってもそこには鍼をしません。
主に手足のツボに浅めかつ低刺激の鍼をするだけです。
音出しできる部屋もあり効果をすぐに確認できます(長時間吹かないと抜けない場合は施術後数日の練習で確認いただきます)。
さまざまな選択肢がありますので、もし鼻抜けにお悩みならお気軽にご相談ください。
鍼以外の可能性についても知り得るかぎりをお伝えいたします。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師