ディストニアの治療法と再訓練
こんにちは!ハリ弟子です。
『どうして弾けなくなるの? <音楽家のジストニア>の正しい知識のために』(音楽之友社)はスペインのディストニア専門医療機関「テラッサ芸術医学生理学研究所」の人たちが書いた音楽家のディストニアに関する専門書です。
この中で著者の病院のディストニア患者86人が、来院前にどのような治療を受けてきたか紹介されています。
薬や手術は除外するとして、副作用なく改善した治療法として理学療法(24人中8.3%が改善)、アレクサンダー・テクニーク(12人中25%が改善)、催眠術(9人中33.3%が改善)、心理療法(7人中14.3%が改善)、演奏技術の再教育(4人中50%が改善)があげられています。
また、改善と悪化の両方のケースがあった治療法として、鍼治療(31人中9.7%が改善、3.2%が悪化)、ストレッチ(21人中42.9%が改善、4.8%が悪化)、ヨガ(15人中6.7%が改善、6.7%が悪化)、用手療法(14人中7.1%が改善、7.1%が悪化)があげられています。
この数字をどう読むかですが、そもそもこれらの治療を受けて満足な成果が得られなかったために著者の病院に来た人たちである点に留意が必要です。
つまりここで言っている「改善」は音楽家としては満足なレベルではなかったということです。
一方でこれらの治療で満足な成果が得られた人たちがいたとしてもそれ以上治療の必要がないので、著者の病院にも来ていないでしょう。
そういった見えざる部分があるかも知れないことも頭に置いておく必要があります。
著者の病院では感覚運動再帰訓練(SMR: Sensory Motor Retuning)というリハビリ法を使っています。
SMRについては89人の追跡結果が示されていて、35人が100%回復して演奏活動に復帰、39人が80%回復して演奏活動に復帰、15人が80%未満の回復または治療を脱落としています。
要した期間は9~24か月で平均15か月、追跡調査期間は最も長い人で8年間ですが100%回復した人についてはこの間1人の再発もなかったそうです。
やや時間がかかるものの回復の信頼性がかなり高いもののようで、大変に興味をそそられます。
SMRの詳しい中身はあまり書いてありませんが、掲載されている写真や訓練内容から察するに理学療法や作業療法などのノウハウをディストニア患者向けに応用、発展させたものとの印象を受けます。
日本でこれをやっている人は残念ながらハリ弟子は知りません。
スペインまで勉強に行くか、あるいは専門の医療職の方がすでに持っている知識・手法をもとに再現的に開発するかですが、専門の人は病院内の仕事で多忙なので、音楽家のディストニアに特化してこれに時間をかけて取り組むのは難しいかも知れません。
日本では鍼治療における類似の研究があり(伊藤久敬『音楽家のジストニア』医道の日本2018年1月号)、20人の患者で治療開始4週、8週、12週目の評価で平均的に改善を得たとの結果があります(ただし3人は1~2年後に再発して再来院)。
あとはネットで検索すると病院、鍼灸、各種整体などいろいろな情報が出てきます。
これらの情報を見る時に注意すべきことは、治療家の側からは基本的に自分のところで改善したケースしか見えていないということです。
これはもう致し方ないことで、スペインのテラッサですら治療を脱落するケースがあるので日本の治療院や整体ではなおさらだと思います。
bodytuneだってそうです。
「残念ながら、いまだに絶対確実で申し分ないと証明された治療法は存在しない」と『どうして弾けなくなるの?』にあるのが実状です。
とは言え「目覚しい進歩があって今ではジストニアは完治できると言える」ともあるように、決して悲観することもなく、かつての治らないものというイメージはもはや変わったと言っていいでしょう。
自分に合った治療法、再訓練法に出会うこと、ある程度時間をかけて取り組むことが大切ですし、治療者側も手法自体をともに開発するくらいの柔軟性と応用力が必要なのだと思います。
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2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師