人物造形が素晴らしい『朝子のムジカ!!』
今回は「元」吹奏楽部だった女性が大人になってから楽器を再開するお話し、和田フミ江さんの『朝子のムジカ!!』です。
(『朝子のムジカ!!』第一話より)
主人公は離婚して実家のある田舎の町に出戻った五來朝子(ごらい あさこ)という女性。
実家を整理していたら学生時代にやっていたトロンボーンが出てきて、就職活動とともに楽器を再開します。そして音楽をきっかけに田舎での生活や人間関係がひろがっていって、、、という話。
大会(=コンクール)での勝ち負けもライバルとの競争もありません。しかし派手なイベントに頼らないストーリー作りは逆に好感が持てます。描き手にとっては難しいと思うのですが、作者和田フミ江さんの丁寧な人物造形のためか、上手い役者の演技を観ている気になります。
たとえば実家に戻った朝子に対して「(別れただんなさんと)もう一回よく話し合って」と言う弟に父親が割って入るシーン。
(『朝子のムジカ!!』第一話より)
父親がなぜ朝子をかばったのかは第四話になってようやく朝子のセリフでそれとなく分かります。何を言ったかはネタばれになるので伏せますが、それを見た後で第一話のこのシーンに立ち戻ると、父親が朝子に対して持つほとんど敬意のような気持ちや、それと同時に愛情深く娘を見てきた時間の積み重なりが感じ取れてまたじ~んと来るのです。
(『朝子のムジカ!!』第一話より)
またこのコマの「朝子は酒グセ悪いから飲むなよ」というセリフ。まわりまわって第五話冒頭の朝子の言い訳につながるという用意周到さ。
こういう展開をさらっと描いてしまうのがこの作者、和田フミ江さんはすごい。
朝子や父親のみならずその他の人物も全員この調子で、その人でなければ言わない、考えないような役回りに描かれています。各キャラクターの人物造形があらかじめしっかりなされているに違いありません。
しかし作者の描き方が上手ければ上手いほどさりげなく自然にストーリーが流れてしまい、この良さが分かりにくくなるのが残念です。
たとえば朝子の使っている楽器が中学時代と今でロータリーの有無が違うところ。ロータリー無しはいかにも学校の備品ぽく、ロータリー付きは個人所有(高校の時に買った)の雰囲気が出るなど、意図を持って描き分けていることが(分かる人には)分かるのですが。
私の場合は、鍼灸の仕事で患者さんの私生活の立ち入った話に触れることがあります。そのせいか人の話した言葉や表情、動きには意を払っています。だから『朝子のムジカ!!』のような繊細に丁寧に人が描かれた漫画が好きなのかも知れません。
この作品の良さはもっと多くの人に届いて欲しいので、最後に宣伝を。
第二巻は5/16に発売です!
私は予約注文しました。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師