イタリア人は前歯の上下を常に開けてしゃべってるのか?
僕が行っていたアレクサンダー・テクニークの学校には、大学で演劇を教える先生やプロの歌手(かつアレクサンダー・テクニーク教師でもある)も教えに来ていました。
もちろん教えていたのはアレクサンダー・テクニークですが、そういう背景ある先生なのでちょいちょいボイス・トレーニング的な内容が入ってきます。
そこで、語学で習う発音方法と舞台や声楽に適した発音方法は違ってもかまわないし、実際、意図的に変えることがあると知りました。
語学で習うのは日常生活で半径5m以内の人に理解されれば十分とすれば、舞台や声楽では広い会場でもっと大勢の人に聞こえて理解される発音が必要です。
さらにそれぞれのジャンルに応じた美的な基準も満たす必要があります。
となるともっと細かく発音を使い分けたり、時には語学のそれと両立しないこともあるだろうと想像がつきます。
この両立しないことを無自覚にやろうとするために発声にトラブルを起こす。
そんな可能性が示唆されます。
特に母語の場合は母語としての自然さの感覚がすでにあるので、相当意図的自覚的に不自然なことをやらないと「芸」になっていかない、そんなことがあるのではないでしょうか。
さまざまな発音方法を観察するためいくつかの言語で同じ「イ」の発音を見てみました。
日本語(0:55あたりから)
フランス語(0:40あたりから)
イタリア語(2:30あたりから)
ざっとこんなことに気づきます。
日本語
・上下の歯は閉じている。
・口角はあまり引かない。
・声門閉鎖音がある。
フランス語
・上下の歯は閉じている。
・口角をかなり引く。
・声門閉鎖音が強め(母音だけのとき)。
イタリア語
・上下の歯の間が少し開く。
・口角はあまり引かない。
・声門閉鎖音はあまりない。
あらためて見たらイタリア語だけ上下の歯間が開いてるんですね(舌が少し見えてます)。
「イ」で閉じなかったら常に開いたまましゃべってるんでしょうか???
歌唱では勝手に一目置いてしまうイタリア語。
あの響きの秘訣はもしかしたらこんなところにあるのかも。
たった1人のモデルの方の発音なのでこれが個人の差なのか言語の差なのかは分かりませんが。
それでも、同じように「イ」と聞こえる音についてこれだけいろんな作り方があると気づきます。
このどれが正解とか良いとかではなく、サンプルとして眺めると面白いことに気づきました。
発音に関与する器官をいったんバラバラにして(肺、声帯、舌、軟口蓋、下顎、唇など)それぞれを別に操作することであり得ない音を作る遊びをすると、意外なところに言語として聞き取り可能でかつ美的な基準も満たす方法が見つかるかも知れません。
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2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師