鍼が苦手な患者さん
鍼灸師は鍼を受け慣れています。
痛いという認識があまりありません。
実際のところ注射針や他のもっと痛い手技と比べればかなりやさしい刺激だとは思っています。
ただしそれも鍼灸師だから思うことであって、一般的にはそうでないことも自覚しています。
だから鍼は人を選ぶ施術だと、ある程度あきらめていました。
先日、鍼がすごく苦手だという患者さんがいらっしゃいました。
1本、1本、これから刺されるというそのたびごとに身構えてしまうとか。
それにも関わらずこの方は鍼の良さを分かってくださっていました。
舞台のお仕事をしていて万全の体調で臨むために鍼が良かった、だからこそ苦手でも受けるのだと。
それこそいろいろなスタイルのものを受けて来られたそうです。
体の感覚は人それぞれで20~30本打たれてなんとも思わない人もいれば、鍼先が皮膚に触れただけで痛いと思う人もいます。
こういう感受性の部分はどうしようもありません。
だから鍼は人を選ぶと思っていましたが、この方に会って認識が変わりました。
良いものは良いのであって、是々非々で考えて鍼が良い場合であれば、人が鍼を選んでくれるよう工夫すべきである。
鍼をする回数を少なくおさめるために頭をフル回転しました。
ツボが起こす体の変化は1つ1つ異なり、そうした1つ1つの法則性を体系化することで整動鍼はできあがっています。
舞台に上がるにあたって不安なところは全身数か所にありましたが、法則が分かっているおかげで読みどおりに症状が消えてくれました。
場合によっては離れたところ2~3か所の症状が1つのツボで消えてくれます。
変化を予測して鍼をしているにも関わらず、実際にねらったことが起こるとこちらも不思議な思いになります。
患者さんはなおさらで、さっきまで辛かったところをさすりながら「わたし、暗示にかかってます?」と半信半疑でした。
結局、鍼をしたのは全部で7か所くらい。
それでも7回も身構えさせてしまったかと忸怩たる感情でいたところ、
「こんなに少ない鍼で効かせてくれるのは本当に助かります。生き返りました。」
とおっしゃっていただきほっとしました。
子どものころ耳鼻科の診察台で中耳炎の処置をしてもらうとき、バキュームの管が入るたびに激痛で耐えていました。
鍼でそのような思いをする人もいるのでしょう。
鍼灸師の平均的感覚で言うと鍼は痛くないものですが、それを拷問のように感じる人もいる。
それでも選んでいただいたこの方の思いを裏切りたくないと思いました。
そのための工夫をこれからの精進の中身としよう。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師