3つの合谷
合谷(ごうこく)というツボは超有名です。
手の親指と人差し指の付け根の水かきみたいなところにあります。
手が疲れたとき無意識にそのあたりをもんでいる人も多いのではないでしょうか。
ところがこの合谷、僕の知る限り3種類あります。
合谷1
1つは現在の鍼灸師養成校で教えられている公式の合谷。
第2中手骨中点の橈側(とうそく)。
養成校で使うツボの位置はWHOが定める世界標準のものに合わせており、それがこれです。
鍼灸師国家試験ではこれで答えないと点をもらえません。
合谷2
2つ目はひと昔前まで養成校で教えられていた合谷。
第1、第2中手骨底間下のへこんだところで第2中手骨寄り。
合谷1よりも手首寄りです。
ツボの世界標準化がなされる前、日本の多くの鍼灸師が使っていたのはこちらの合谷です。
合谷3
3つ目は澤田健という明治生まれの名人鍼灸師が使っていた合谷。
手首と合谷2の間のへこんだところで動脈の上に取り、別名澤田流合谷とも呼ばれます。
澤田流はわりと大きな影響力のあった門下で、今でも直接間接にこの流派のやり方を受け継いでいる鍼灸師は多いと思います。
ただしこの合谷、澤田流の治療を伝える『鍼灸真髄』(代田文誌著)によると灸で使っていたツボのようです。
科学史家、山田慶兒の『中国医学の起源』によると灸療法の原始的な姿は動脈上に直接もぐさをすえて燃やすことだったらしいので、もしかしたら古代中国のツボの取り方に忠実と言えるかも知れません。
どの合谷もそれぞれに意味があります。
僕が自分に打って感じるところでは、合谷1は手そのものの筋疲労や痛み、合谷2は上腕前面から大胸筋、小胸筋を経て首の前面から喉の奥への筋テンションに変化を与える印象があります。
顎関節症のトランペット奏者の方に合谷2を使ったとき、即座に「あ、今ゆるみました!」と言われたこともあります。
合谷3はまだ試していませんが、動脈上に灸をすえることから察するに血管、心臓、自律神経系への何らかの影響をねらったものと考えています。
『鍼灸真髄』では目の病気、血圧亢進などに使ったと書かれていますね。
僕が一番よく使うのは合谷2です
厳密に言うとその中でもさらに細かく3か所くらい使い分けています。
どんなときにどの合谷を使うかもっと明確にできればいいのですが、どんな観察の事実に基づいてツボを選んで、どの症状に効いたのか、まだまだランダムな情報でしかなく整理する必要があります。
今は合谷のあらゆる可能性を探って事例を重ねているところです。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師