ツインレバーステアリングに見た夢
こんにちは!ハリ弟子です。
今から10年近く前、ホンダがツインレバーステアリング(TLS)というシステムをF1のマシンに載せたことがありました。
実物の写真がこちらの記事の下の方で見られます。
ステアリングは丸じゃなくていい!ヨーク、それともスティック?
車のハンドルは普通丸いです。
ところがこれだととっさの時に直観的な操作がしづらいのだそうです。
車の動きは二次元の水平面上しかあり得ないのにハンドルはほぼ垂直にセットされていてしかも回転します。
バックの時などハンドルを逆に切ってどつぼにはまった経験がないでしょうか?
考えないと操作できないものはデザインとしてはよろしくありません。
そこでホンダはTLSという2本のレバーにハンドルの機能を持たせた車を開発しました。
TLSなら、右折したければ右を手前に引くまたは左を前に押す、左折したければ左を手前に引くまたは右を前に押せば曲がります。
やってみると分かりますが直観的で間違いにくいです。
同じでマシンでTLSと普通のハンドルで比較走行したところ、TLSの方が1レース平均約0.3秒速かったそうです。
このシステムの開発にはある科学者の発見が関与しています。
熊本水頼(くまもと みなより)京都大学名誉教授です。
熊本先生は東京オリンピックの時にカヌー競技のトレーニング・ドクターをしていて、選手がパドルを引く動作でどの筋肉が働いているか筋電図をとって調べました。
ものすごい力で肘が屈曲しているにも関わらず、上腕二頭筋の放電がなかったそうです。
この発見から先生は効率的な動きと筋肉の制御に目を向けていくことになります。
先生が発見したのはこういうことです。
手首と肩関節が最短距離で近づこうとした時、上腕二頭筋は働かず上腕筋だけの作用でそれが可能だった。
上腕二頭筋も上腕筋も肘の屈曲という同じ作用を持ちます。
上腕二頭筋は肩甲骨と橈骨(とうこつ)をつなぐ二関節筋で、上腕筋は上腕骨と尺骨をつなぐ単関節筋という違いがあります。
手首と肩関節が最短距離で近づく動きは、図の点線上をとおる動きです。
この時、肘関節は青い矢印のように動くはずです。
肘関節が動かなければ動きはこのようになります。
このような時は手首が肩関節に近づく動きは最短距離にはならず、上腕筋以外の筋肉も働きます。
熊本先生は初心者の選手にもパドルを引かせていて、その際は上腕二頭筋からも放電が認められたそうです。
仮に最短距離で動くことを最も効率的な動きとすれば、1つ目の図の方が効率的ということになります。
そのようなわけでF1のTLSはドライバーの手首と肩を一直線上に結ぶような位置にセットされたそうです。
なかなか興味深い話ですね。
ただ、カヌーがフルパワーでの動きだったのに対し、F1はそこまでの力は必要ありません。
この違いにより仮説とはやや異なる結果が実際には出たそうです。
次回に続きます。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師