アンブシュア不調から回復したクラリネット奏者の話
数年前にアンブシュア不調でご相談いただいたクラリネット奏者の方とひさしぶりにお会いしました。
当時は吹こうとすると顎に意図せざる力が入り、リードをかみ過ぎて音が鳴らなくなるような症状でした。
幸い、今はそういうことはなくなっています。
どういったきっかけ、ないしどのようなことに気をつけていたら不調を脱することができたのか、お話を聞いて強く印象に残ったことが4つありました。
1.マウスピースをくわえる深さを変えた
マウスピースを深めにくわえるようにしたら徐々にうまく行くことが増えてきたそうです。
実はだいぶ前にもアンブシュアをくずしたことがあり、そのときと今回の共通点は「マウスピースを浅めにくわえたら?」とのアドバイスを受けて取り組んでいた時期だったそうです。
因果関係があるかないか断定的なことは言えませんが、この方の場合にはどうも浅めにくわえることで奏法上の別の何らかの要素がうまくいかなくなる傾向があったのかも知れません。
そう思ったのは、次にあるようにタンギングの位置について言及があったからです。
2.タンギングで舌を当てる位置を変えた
いろいろ試す中で、舌先よりわずかに手前の舌の面で当てた方がタンギングがうまくいくことに気づいたそうです。
完全な舌先よりもこの方が当たる面積がやや大きくなることが関係しているのではないかとのことでした。
3.息で音を作る要素を意識的に割り増しにした
この方の場合、スタイルとして音色やニュアンスの吹き分けにとてもこだわりがあります。
そのためにアンブシュアやタンギングには以前からこだわってきたところがありますが、今は息でそれらを作る要素を育てるよう気をつけているそうです。
もちろんアンブシュアやタンギングが完全に不要になることはあり得ませんが、その作業にとにかく息を参加させ続けたことでコンディションが多少落ちたときでも確実にできることが底上げされたとのこと。
今後は、底上げされた息をもとにアンブシュアなどをもっと微妙にコントロールして幅を広げたいと話していました。
4.以前に戻ったわけではない
このようなことに気をつけたところだんだんと調子が戻ってきたのですが、以前の感覚、奏法に戻ったのではなく、今の状況から新しいやり方を見つけ出しているところだそうです。
お話を聞いていろいろ示唆的だと思いました。
マウスピースやタンギングの話はもちろんこの方の場合なので万人に通用するものではありません。
ただしくわえる深さ・浅さとタンギングの関係性というのは、どちらかだけ変えればよい(またはどちらかだけ独立に変えることができる)ものではなさそうなことがうかがわれます。
また楽器が鳴るために最低限必要な単位を理解し、コンディションに関わらずそこまでは担保した上で、さらに微妙で複雑な技術に広げていく考え方は他の楽器でも参考になりそうです。
この方は不調を経験したことでより深い奏法の理解にたどりついて以前よりも進化されていました。
僕にとってもたいへん勉強になるお話でした。
関連記事
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師