座奏時の股関節とアンブシュアの意外な関係
今日はこちらの症例について少し解説を。
特に「施術と経過」6回目のところに書いた「骨盤と大腿骨の関係性」について。
このとき気づいたのは要するに股関節の動きでした。
たとえば上をあおぎ見るように上半身を反らすと股関節は伸展しますね。
これに加えて内旋の力がはたらくという話を以前整動鍼のセミナーで聞いていました。
見た目として動いてなくても姿勢を維持する力として作用します。
チューバは太ももの上に載せてかまえます。
股関節内旋の力を使い続けるわけです(内転もありますが、それに関係するツボは以前から別の目的で使っていたので今回は外しました)。
ということは外旋に制限がかかる体の使い方が定着しやすいと考えます。
次は脊椎の動き。
小さな楽器なら手を動かすことで楽器とアンブシュアの関係を変えられます。
チューバは大きいので脊椎を動かすことも楽器とアンブシュアの関係を変えるのに寄与します。
脊椎はさらに呼吸とも関わっています。
ツボとの関係で言えば、股関節の内旋・外旋がやりづらくなるとそれぞれある特定の椎骨周辺が硬くなることが分かっています。
ということは股関節の硬さが脊椎の硬さになり、脊椎の硬さが呼吸のしづらさやアンブシュア調節のしづらさになるとの推測ができます。
観察した演奏動作からこうしたことを推測しその動きだけ取り出して調べたり、背中を触って状態を確認したりします。
妥当性が見えたら使うツボ決定です。
さっきのある特定の椎骨周辺をゆるめるツボを使えばいいわけです。
椎骨周辺の硬いところに直接鍼をするのもありです。
整動鍼を知る前、僕は夾脊というツボを多用していました。
夾脊とは背骨のすぐそばのツボで、1つ1つの椎骨に左右2か所ずつあります。
ピアノや木管奏者の指の不調に胸椎の夾脊がよく効きました。
当時は経験値だけでとにかく硬いところを1つずつ試していました。
その中で小児喘息の既往と指の不調の関係など独自に見えてきたものもあります。
でも経験だけだと効かない場合の理由が分からなくて気持ち悪いんですね。
整動鍼で椎骨1つ1つと動きの関係が明らかになってるのを見てとてもすっきりしたものです。
さらに椎骨1つ1つをゆるめる手足の別のツボが特定されていて驚きました。
なのでこの症例で使ったのは脚のツボ。
鍼をしてもう1度吹いてもらったら脊椎の動きがより活発になりブレスもアンブシュアも改善しました。
ご本人の感覚でも吹き心地が変わりました。
これを股関節とアンブシュアがつながっていると言ってしまうと、よくある「結局は全体です」的なあまり役に立たない物言いになりますが、実際にはかなり積み上げの論理があります。
こういったことは腕の良し悪しではなく知ってるかどうかだけなので、知らない鍼灸師は本当に損をしてると思います。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師