正常な立ち方って?
こんにちは!ハリ弟子です。
昨日のブログで喉のゆるめ方について考えていて、フランスのアレクサンダー・テクニーク教師Jeando Masoeroが以前書いていた文章を思い出しました。
タイトルは、「アレクサンダーの押し潰された喉頭について知りたいけど今さら聞けない全てのこと(原題:Everything you wanted to know about Alexander’s depressed larynx but were afraid to ask)」です。
長い英文ですが、なかなか面白いことが書いてあります。
アレクサンダー・テクニークの用語で、「頭は前に上に(Head Forward and Up)」というのがありますが、Jeandoによると、これをすると胸郭と頚椎は息の流れがスムーズになるような形に整うそうです。
他方で、医学的な「正常立位」とされる姿勢とはこれは相いれないとも書いています。
医学的な「正常立位」とはどんな姿勢でしょうか?
ハリ弟子の鍼灸学校時代の教科書をひもといてみますと、こうあります。
「正常立位姿勢をとったとき、重心線は耳、第1頚椎、第7頸椎、第10胸椎、第5腰椎、仙椎の前方、股関節の後方、膝関節の前方を通り、踵と中足骨骨頭の間に落ちる。」(医歯薬出版『リハビリテーション医学 第3版』)
国家試験にこれがそのまま出ると言われて、当時は丸覚えしましたが、今となっては「正常」の概念にいろいろ疑問が生じます。
これに対して、医歯薬出版『筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版』では、「理想的な立位姿勢での重心線は、非常にばらつきが大きいが、一般に、側頭骨の乳様突起の近傍、第2仙椎の前方、股関節のすぐ後方、膝関節と足関節の前方を通る。」とあり、米国の運動学の世界ではややトーンダウンしている印象です。
「理想的な」というのは、原著の英語ではおそらく”ideal”でしょうから、「頭の中で考えた理屈の上では」くらいの意味に解釈すれば、もはや「正常」のニュアンスはありません。
調べてみると、「正常立位」の出所は、19世紀ドイツのBrauneとFischerが提唱した”Normalstellung”がもとのようです。
彼らの研究は、冷凍したご遺体をいくつかに切断して、その各々の重心位置を測定するというものでした。
切断した各部の重心位置をつなぎ合わせれば重心線ができるような気がしますが、ご遺体ですから普通に考えたら台の上にあおむけに安置されていたことでしょう。
そこから導いた重心線もあおむけに寝た状態の人体を縦に起こしたものだったかも知れません。
2人は、筋活動についても研究していたようなので、ある程度補正をかけて重心線を検討したかも知れませんが、それにも限界があるでしょう。
では、正常立位を実測しようとした場合はどうでしょうか?
まず、正常立位の「正常」を定義する必要があります。
おそらく最小の筋活動量で立位を保持できる時の姿勢といった感じになるでしょう。
でも、筋活動量が最小であることをどう決めるのか、また、仮に最小が求められたとして、そのような立位姿勢のパターンはおそらく1つではないのではないか、と考えるとわりに難しいことだと分かります。
それもそのはずで、これは現在でもMRIを使ったり数学的モデルを開発したりして、より良い測定法が検討されているような課題なのです。
さらに言ってしまえば、「より良い」とは「より役に立つ」ということであり、現代の研究は分析の目的に応じて役に立つ測定法を開発しようとする点で、手法の選択にすでに意図が入っていることに自覚的です。
そこにはすでに「正常」かどうかの視点はありません。
おそらく、19世紀のBrauneとFischerにも彼らなりの目的や意図があって、「正常立位」なる概念を提唱したのでしょう。
それが何であったかは分かりませんが、そこに無自覚にこの立ち方が「正常」などと、21世紀の我々が言うのはいかがなものでしょうか。
以前、とある整体で姿勢のチェックをされたことがあります。
壁際に立たされて、踵、お尻、背中、後頭部が壁にくっつくように立つのが良い姿勢であると指導されました。
19世紀のご遺体と同じ姿勢を立ったままやらされていた、なんてことでなかったらよいのですが、、
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師