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アレクサンダー・テクニークに組み込まれた進化論の諸問題

" アレクサンダー・テクニーク "

2021年7月31日

先日、アレクサンダー・テクニークの教師養成課程を卒業した方からメッセージをいただきました。アレクサンダー・テクニークを学んだ人の中に選民思想的な考えを持つ人がいます。そのことへの批判を以前このブログに書いたことがあるのですが、その方も同じような違和感を持ってらしたそうです。

 

選民思想という言葉は普通は宗教とのかかわりで使われます。ところがアレクサンダー・テクニークの創始者は自分のやり方を「科学的」と考えていました。フレデリック・マサイアス・アレクサンダーが生きたのは1869年から1955年。今日はこの時代の人々の「科学的」の意味合いとそれがなぜ選民思想的な発想に結びつくのかを考えます。

 

アレクサンダーは自分のやり方を「科学的」かつ「人類進化の次の段階」と考えていました。この二つがなにをほうふつとさせるかと言えばマルクス(1818年~1883年)の発展段階説です。そしてマルクスの発展段階説は19世紀アメリカの人類学者ルイス・ヘンリー・モーガン(1818年~1881年)の影響を受けています。

 

モーガンは人間を野蛮、未開、文明の3つの段階に分けて、これと進化論をかけ合わせて白人の方が有色人より進化しているなどの学説を展開しました。現在は人種差別主義として否定されていますが当時はこういう歴史観が「科学的」に語られていたわけです。僕もなぜかモーガンの『古代社会』を大学で読まされた記憶があります。

 

アレクサンダーは彼らより少し後の時代の人ですが同じフレームを使っています。アレクサンダーが本で主張した内容の一部は、古代から現代、未来に向かって人類が進化するにあたって、自分のテクニークを修めれば次の段階の人類になれるというものだからです。アレクサンダーは共産主義ではありませんが、社会主義革命からプロレタリア独裁そして最終的に階級のない社会になると説いたマルクスと歴史観は同じです。理想的な未来は来る、ただしそこに至るためにはこの本の内容を実践する必要がある、実践するのがアレクサンダー・テクニークかプロレタリア独裁かの違いです。なにしろマルクスの考え方に基づいて現実に国家が存在した時代ですから、当時は相当なリアリティがあったでしょう。

 

アレクサンダーは自分がやってみてどうだったか、またそれを人に教えた経験からテクニークを作り上げた人です。そこまでは実際に体験された事実があるので技術(テクニーク)と言うには十分です。ほとんどの人はアレクサンダー・テクニークをそう受け止めて役に立てています。

 

しかし中にはアレクサンダー・テクニークの真髄を人類進化の方に見出してそちらに傾倒する人もいるのですね。その根源は今まで述べてきたとおりです。アレクサンダー・テクニークと人類進化の関係、こういう検証不可能なことを正しいと思うかどうかは別な言葉で言えば信じるかどうかの問題です。そういうものを今日的な意味では「科学的」とは呼びません。

 

アレクサンダーの著作の人類進化の部分を読むにあたってはモーガンの差別的なモデルを継承する可能性について思いをいたす必要があります。「アレクサンダー・テクニークを知らないで、間違った(自分の)使い方をしているかわいそうな人たち」というような言葉を実際に僕はアレクサンダー・テクニーク教師の口から聞いたことがあります。メッセージくださった方も同じような経験をされたのだと想像します。どんなに自分が良いと思うものでも、それの有無で人の優劣を判断するような考えは(個人の内面で思うのはともかく)公言してはまずいでしょう。増してや教師養成コースの中ででしたからなおさらダメです。

 

ところで冒頭に選民思想という言葉は普通は宗教とのかかわりで使われると書きました。アレクサンダーの生きた時代、宗教的な方面でも様々な動きがありました。その一つに神智学協会があります。「科学的」であることを標榜するアレクサンダーが未来を見るのに対し、神智学は神秘的体験や過去の原典に根源を求めます。そして時代を下った現代でもオカルトやスピリチュアル系に様々なネタを提供する元となりました。

 

両者は正反対の方向を見ながらどちらも検証不可能なところで人間の発展を夢想しました。結果として、選民思想に収れんされるような素地を持っていた点は共通だったのではないかと思います。検証不可能な奥義とか真髄というのはいつの世も人をひきつけてやまないのかも知れません。そう思うと現在のアレクサンダー・テクニークがオカルト系、ニューエイジ、スピリチュアル系の人たちを少なからずひきつける理由も分かるような気がします。

この記事を書いた人

2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。

2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。

はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師

 

カテゴリー: アレクサンダー・テクニーク. タグ: .
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