ディストニアもどきと真のディストニア
先日のブログからの続き。
>>前回のブログ「演奏家の指の不調は手首から背骨にかけての筋張力バランスをみる」
筋肉が1か所で過度に収縮したものがコリです。
状態のいい筋肉は伸縮自在で柔軟性があるので動けるのに対し、コリのある筋肉は普段からコリが他の部分を引っ張っていて伸縮の調節が十分に効きません。
だから動きが制約されるのですね。
実際にはここまで単純ではありませんが整動鍼の基本的な理論はこういうことです。
コリに鍼を当てて引っ張りをキャンセルすると伸縮自在な状態に戻り、元のとおり動けるようになります。
逆にコリが残ったままで動かし続けると筋肉の張力にアンバランスを生じ、さまざまな不調につながってきます。
想像してみてください。
鉄棒にぶら下がった状態では指を細かく動かせないですよね。
ぶら下がる時点で腕の筋肉を使ってるので、指先を細かく動かすには筋肉の張力が強すぎるんです。
こういった筋肉の張力バランスのことを仮に「動作環境」と呼ぶことにします。
動作には、それぞれの目的に応じた適切なレベルの張力バランスがあると思うのです。
緊張が過ぎたり、長時間の練習で疲れるのにさらに負荷をかけ続けると、それは鉄棒にぶら下がった腕で繊細な運指をするのに似ていないでしょうか。
前回のブログでは鍼が変化させられるのは動作環境の方だと書きました。
ここからが今日の本題です。
ディストニアもどきという言葉があります。
医学的にきちんと定義された言葉ではないと思いますが、医師の中にも使っている方がいます。
なんとなくのイメージですが、症状の程度がディストニアと診断するにはまだ至らないが、かと言って他の病気とも言えないような不随意運動が出る運動機能障害といったところです。
鍼灸で意外なほど早く(それこそ1、2回の施術でも)改善するような例を僕も経験しています。
僕の中で勝手に思ってることですが、こういうケースはディストニアもどきではないかと思うのです。
アレクサンダー・テクニークの観点からすると、問題の動きとどう動いたらいいかは見たら分かります。
だったらそれを提案すればいいのですが、問題は体が思ったようには動いてくれないことです。
この理由がもしも動作環境にあるとしたら、動きを制約しているコリを鍼でキャンセルすることで症状が改善することがうまく説明できます。
ただしどのコリでもいいわけでなく、必要な動きを制約しているコリです。
体の状態を変えて改善するということはどちらかというと問題は体にあると言えます(そういう体の状態になるようなやり方、奏法、緊張・あがりなどがあれば改善した方がいいですが)。
これに対して真のディストニアもあります。
こちらはもっと脳のレベルに原因があると考えられています。
脳が発する運動のプログラムは動作環境の状態に合わせて随時微調整されています。
異常な動作環境に過度に適応しようとすると、運動プログラムも混乱します。
これがある限界を超えると、動作環境が整えられても運動プログラムがすでに機能しうるものでなくなってるために思ったとおりに体が動きません。
あるいは、症状が出るような体の状態(緊張・あがりなどのメンタルな状態を含むことも多い)を無意識レベルで脳が指令していて、体の状態を変えても脳の指令が上書きしてすぐに戻るのかも知れません。
もどきと真のディストニアが同じ疾患の段階が異なるものなのか、または別物なのかは僕には分かりません。
ただ、もどきの方が比較的改善が見込みやすく、鍼灸の施術でわりに少ない回数で効果が感じられたら、それはもどきと見ても良いだろうと思います。
また、鍼灸で改善したとしても、症状が出るに至ったのは奏法なり動きの癖になんらかの原因があるので、再発防止の意味でもアレクサンダー・テクニークのレッスンも並行して受けるのが良いと考えています。
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2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師