頭の位置でやりやすさが変わるのなぜ?
理学療法の分野での興味深い論文を見つけました。
姿勢制御に関する頭頚部の役割を検討するもので、あおむけから起き上がる動作と椅子から立ち上がる動作で、頭の位置をいろいろに変えてやってみた場合に筋活動がどう変わるか計測しています。
頭の位置は、通常、頭頚部屈曲、頭頚部伸展、あごを引く、あごを出す、の5種類です。
計測した筋肉は胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維、腹直筋、内外腹斜筋重層部位、腸肋筋、多裂筋、広背筋、大腿直筋の8つ。
これらのうち頭頚部の動きに直接かかわるのは胸鎖乳突筋と僧帽筋上部線維です。
つまり通常時とそれ以外の時で比べて胸鎖乳突筋と僧帽筋上部線維以外の6筋の筋電図に変化が見られたら、それは頭の位置を変えたことによる影響を受けて体幹の筋肉の使い方が変わったことを示唆します。
結果はどうでしょう?
頭の位置を変えるだけで腹直筋や広背筋、大腿直筋など、頭の動きと関係なさそうな筋肉の活動が変化することが分かりました。
これはあおむけから起き上がる動作と椅子から立ち上がる動作の両方で見られ、しかもおおむねどの筋肉も通常のやり方より活動量を増す方に変化しました。
頭の位置を変えるだけで腹直筋や広背筋などブレスに影響ありそうな筋肉が変わるのは興味深いですね。
頭の位置で体幹が変わるなら、ではどうするのが「良い」頭の位置なのでしょう?
さすが理学療法の論文です。
リハビリに役立てる意図からでしょうか?本文ではそこまで踏み込んだ実験をしています。
測定する筋肉は上と同じ8筋で、被検者が座ったまま横に体重移動する動作を通常時と以下の3つで比較しました。
①セラピストが後ろから被検者の側頭部に軽く触れた状態で体重移動してもらう
②いわゆる正常立位に合わせて、耳たぶ(乳様突起)と肩峰が鉛直線上にならぶようにしたまま体重移動してもらう
③セラピストが後ろから被検者の側頭部を持って上方向にけん引した状態で体重移動してもらう
結果、もっとも筋緊張が少なく動けたのは①でした。
通常時、つまり自分1人でやった時と比べても腸肋筋や多裂筋の筋活動が小さくて済んだそうです。
どうも頭にごく軽い接触刺激があるだけでも、人は無意識に「良い」バランスのとり方ができるようです。
アレクサンダー・テクニークでよくやる頭や首のあたりにやさしく手で触れるのにはこんな意味があるのかも知れませんね。
元の論文はこちらから全文が読めます。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師