脱力しても鍛えてもうまく行かない時は
「僕は筋トレをしません。」
いつだったか、野球のイチロー選手がインタビューで言ってるのを聞いたことがあります。
楽器演奏ではよく脱力が大事と言われます。
また、速いパッセージで疲れた時にもっと指が回るように鍛えるという話もよく聞きます。
このどちらもうまく行くとは限りません。
筋肉は腱を介して骨に付いています。
脱力が行き過ぎると筋肉がゆるむだけでなく腱も張力が落ちます(上の図の左側)。
極端に言うとたわむわけです。
そうすると動きが起こるためにはたわんだ腱がピンと張るところまでまずは筋肉が収縮する必要があります。
動くたびにいちいちこんな「あそび」があったら制御が大変です。
ジャスト・オン・タイムで音が欲しいのにこれでは困りますね。
逆に鍛えるのが行き過ぎると筋肉で過剰に腱を引っ張ることになります(上の図の右側)。
筋肉は縮むしか能がないので、伸ばすためには反対側の拮抗筋を使わないといけません。
過剰に引っ張られた分をまずニュートラルまで戻すという余計な作業が必要になり、これまた制御が大変です。
筋肉とそれを包む筋膜、腱といった組織にはそれ自体の素材としての長さがあります。
その長さに見合うだけの適度なテンションさえあれば、狙ったタイミングで即座に動きが起こり、制御もよりシンプルで済みます。
アレクサンダー・テクニークの本に時々書いてある「長く広く」とか「関節の間のスペースを詰めないで」というのはこういうことではないかと思います。
もちろん必要以上にガチガチに力が入っていれば力を抜くことにつながるレッスンをしますし、スポーツの種目などにより本当に筋力が必要であれば鍛えるためのレッスンもやります。
が、アレクサンダーのレッスンでは脱力か鍛えるかの両極端を狙うのではなく、真ん中のちょうど良いテンションを目指しています。
そうすることで反応性の良い、動ける体のコンディションができてきます。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師