弦楽器の奏法と体格問題
体格と奏法の関係について女性のヴィオラ奏者と話したことがあります。
彼女は男の先生にしか習ったことがなく、姿勢を直すために壁を背にして肩甲骨をつけて胸を開くように教わったそうです。
当時これで弾きやすくなったそうなので一定の効果があったのは確かでしょう。
でも今の彼女は先弓のボウイングに困難を感じていました。
肩甲骨を壁につける(=肩甲骨を後ろに引く)と肩甲上腕関節が後ろに行くので、その分腕の長さを損します。
使う楽器と弓のサイズは誰でも同じです。
大柄な男性だったらこの姿勢でも腕の長さは十分足りるかも知れません。
でも小柄な人がこれでボウイングすると、先弓でリーチが厳しくなるケースが出るわけです。
そこから体格と奏法の話題になり、昔から体格に優れた上手い人の奏法が正統的とされてきて、もしかしたら自分の体でできるできないと関係なく、そうやらないといけないと教え、教えられてきたかも知れませんね、という話になりました。
そういう意味ではコントラバスこそ、体格による制約が出やすい楽器です。
グリエール作曲『タランテラ』という曲を3人それぞれの演奏で比較してみました。
Mikyung Sungの演奏。
一番小柄でしかも立奏です。
楽器の倒し方、足の使い方はどうでしょうか。
右手が駒寄りに行く時に膝も曲げて、左手が上に行く時は膝も伸ばして、体勢のバランスを取りながら腕のリーチをかせいでいます。
また楽器をよく動かすことで自分にとって弾きやすい位置関係になるよう要所要所で調節しています。
その分、音幅や移弦の感覚が相対的なものになるので難しいと思うのですが、そんなこと感じさせないのがさすがです。
次はBožo Paradžikの演奏(3:45から聞くと同じ曲で始まります)。
彼はかなり背が高いです。
Mikyungと比べれば楽器をほとんど倒さず動かしません。
あまり映ってはいませんが、おそらく足は伸ばしっぱなしだと思います。
楽器を倒したり、膝の曲げ伸ばしをしなくても腕の長さが十分足りるのでしょう。
楽器が自立するバランスのところで立てておいて、基本的にそれを崩さず弾いています。
3つ目は池松宏さん。
こちらは座奏です。
チェロ並みに楽器を倒して、右手も左手もそのままで届くような位置に構えて、楽器を動かさなくて済むようにしています。
こうすることで、音幅の取り方とか移弦が常に同じ感覚の中でできるメリットがあるのだと思います。
ただしこれも池松さんの体格でできることであって、もっと小柄な人だと腕の長さの関係で先弓が苦しくなるので、多少楽器を動かすか自分の体勢を変える必要があるでしょう。
そういう意味で、座奏よりも立奏の方が足を使えるから弾きやすいという人もいるかも知れません。
どれが正解というものではなく、どれもが正解です。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師