アレクサンダー・テクニークで言う良い姿勢・動きとは何か
こんにちは!ハリ弟子です。
アレクサンダー・テクニークを学ぶ過程、また教える中で、姿勢と動きのどちらを見るのだろう?と考えることがあります。
姿勢とは姿(すがた)の勢いだからやっぱり動きなんですよと言って両方を一緒に考える人もいますが、でもその動きも無限のヴァリエーションがあるわけです。
そうすると、無限の可能性の中である種の軌跡を描く動きをなぜ選ぶのか、こういう問題がいぜんとして残ります。
体の各部分どうしがある種の位置関係にありながら動くのを良しとするような、そんなカルチャーがアレクサンダー・テクニーク界隈には確かにあります。
アレクサンダー・テクニークの用語に機能的優位(Technical Advantage)という言葉があります。
どうもこの言葉が「ある種の位置関係」を良しとする考え方の源流にあるような気がして、ネタ元のアレクサンダーさんの本をひもといてみました。
出版された本の中で機能的優位(Technical Advantage)が出てくる一番古いところは”Man’s Supreme Inheritance”の第3章です。
“Man’s Supreme Inheritance”自体は1910年に初版されていますが、1918年に改訂第2版になった時に1907年初出の”The Theory and Practice of a New Method of Respiratory Re-Education”を第3章として再録しています。
なので、おそらくこの部分が(本として出版されたものとしては)アレクサンダー・テクニークの最古層になります。
respiratory education or respiratory reeducation will not prove successful unless the mind of the pupil is thoroughly imbued with the true principles which apply to atmospheric pressure, the equilibrium of the body, the centre of gravity, and to positions of mechanical advantage where the alternate expansions and contractions of the thorax are concerned.
(和訳)呼吸教育あるいは呼吸再教育は生徒が正しい原則をすっかり会得しない限りうまくいかない。正しい原則が空気の圧や体の平衡、重心、胸郭の拡大・縮小という反復運動に関わる機能的優位のポジションに適用される。
「機能的優位のポジション」という言葉が使われており、体の部分ごとの何らかの位置関係が思い起こされます。
また、このポジションという言葉、他の箇所ではこのように書かれているところもあります。
certain peculiarities or defects are characteristic of the members of particular families, as, for instance, in connection with the standing and sitting postures, the style of walking, the position of the shoulders and shoulder-blades, the use of the arm, and the use of the vocal organs in speech, etc.
(和訳)ある種の癖または弱点が特定の家族に特徴的であることがある。例えばこんなことが関係する。立ったり座ったりする時の姿勢、歩き方、肩や肩甲骨のポジション、腕の使い方、話す時の発声器官の使い方、などである。
これを書いた時のアレクサンダーさんは38歳、少なくともこの時点では何らかの体の部分の位置関係を良しとする考え方をしていて、それを機能的優位と呼んでいたことで間違いないと思います。
次に問題になるのは、現代の我々が様々なニーズでやってくる生徒さんに対してこの機能的優位を教えることの有効性です。
アレクサンダーさんがこれを言っている文章のタイトルは”The Theory and Practice of a New Method of Respiratory Re-Education”です。
つまりこの機能的優位は元来は呼吸の再教育という文脈での機能的優位なのかも知れません。
アレクサンダーさん自身が幼少時から呼吸に問題を抱えていたこと、長じて俳優になって声枯れというトラブルに見舞われて、自力でそれを克服したことを考えれば、彼がこの分野で提言する機能的優位なポジションに自信をもっていたことは容易に想像できます。
でもそれは別な文脈に置き換えても有効たりうるのかどうか?
アレクサンダーさん自身は、当時問題とされていたあらゆる病気に対して効果があるという自説を著書で書いていますが医学的には検証が必要でしょう。
そしてこの機能的優位という言葉、最初の著書”Man’s Supreme Inheritance”で使ってから2冊目の”Constructive Conscious Control of the Individual”では1か所触れるのみ、それも前著”Man’s Supreme Inheritance”の内容に触れる形での言及です。
3冊目の”The Use of the Self”と4冊目の”The Universal Constant in Living”では使わなくなります。
ハリ弟子としてはこう考えています。
アレクサンダーさんの言った機能的優位が現代の生徒さんのニーズに適応してうまく機能することもあります。
でも試してみて生徒さんのニーズに適応していない場合には、すぐに取り下げて別の仮説を検討します。
レッスンのその場で仮説・検証を行い、その人のその時のニーズに即した機能的優位をともに探求するのです。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師