デルサルトの方法論
こんにちは!ハリ弟子です。
医師に頼らずに声を回復させる決心をしたデルサルトがやったことは、観察でした。
何を観察するのでしょうか?
コンセルヴァトワールで受けたデシャイエ(André-Jean-Jacques Deshayes)の授業がとても印象に残った、とデルサルトは書いています。
デルサルトがあるフレーズを歌った時、デシャイエはこちらを見ていなかったのに「君の体の動かし方はおかしい。そのフレーズには合っていないよ。」と指摘しました。
見てもいないのになぜ分かるのか?と聞くと、デシャイエはこう答えました。
「君ねえ、声色は体の使い方で変わるんだよ。だから、声の抑揚から君のかっこうを知るのはそんなに難しいことじゃないんだよ。」
このことから、デルサルトは体の動かし方と声に関係があること、また声で何を表現したいかによってそれに合った適切な体の動かし方があり、そこには何か普遍的な原理があると考えました。
そこから、声ー体ー表現(されるべき感情)の関係性を観察するようになります。
彼は、通りでも公園でも人々を見て研究しました。
また、ルーブル美術館の作品に描かれた人物のポーズからもヒントを得ようとしました。
さらに、医学校の解剖学教室で人体解剖を見学し、生理学まで学びました。
当時、デルサルトのいとこが現在のパリ第5大学医学部に学んでおり、多分そのつてで出入りしたと考えられています。
デルサルトの観察は自分自身にもおよんでいました。
こんなエピソードが残っています。
ある時、デルサルトは、喜びのあまり派手に驚かなければならない役があり、どうやってそれを演じるべきか分からなくて困っていました。
演技指導にアドバイスをも求めてもしっくりきません。
そんなある日、仲の良いいとこが何の前触れもなくデルサルトに会いに来ました。
その時、デルサルトは驚くと同時に自分の胴体の上の部分が後ろに動いたことをしっかりと観察しました。
理屈で考えていたのと逆だ、、、嬉しさが過ぎると、仲良しの相手に飛び込んで行くのではなく、遠ざかるような動きをしなければならないとは!でもこれが自然が示していることだ。そしてこれこそが誰も説明してくれなかったことだ。
(抄訳:太字部分のみ)
デルサルトは、観察を通じて経験主義的に問題を解決することを学びつつ、イタリア語の歌唱法を研究して採り入れました。
歌を教えて欲しいと生徒が集まるのにそんなに時間はかからなかったようです。
コンセルヴァトワールで見捨てられた生徒たちが大勢来てしまい、教授たちの敵意を買ってしまったそうです(若干盛っている可能性ありますが、、)。
(つづく)
今日の話は、フランク・ヴァイユというフランスの研究者の論文に多くを負っています。
原文に興味がありましたら、こちらへアクセスしてみてください。
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2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師