脊椎のツボと声の響き
先日、高い声が上にひっくり返ってしまう症状の方がいらして鍼で施術しました。
いつものとおり、状況を確認するため施術前に声出しをしてもらいます。
そのとき母音の「イ」でテストされてるのが気になり「どうしてイで歌うんですか?」と聞いたところ、「イの母音が一番症状が出やすいやりにくい音なので」とのこと。
試しに「ア」でも歌ってもらうと「イ」ならひっくり返る音域でも持ちこたえることができます。
そして、ひっくり返る/返らないもさることながら、響きの違いも僕には強く印象に残りました。
問題を生じない中くらいの音域を歌うときでも「ア」と「イ」ではまるで別人くらいに響きが違って聞こえたのですね。
とはいえ直接の症状ではないのでとりあえずの参考情報として頭の隅に置きながら施術を組み立てました。
整動鍼には脊椎まわりのツボが多く設定されています。
各椎骨ごとにいくつかあって、かける椎骨の数だけツボがある計算です(基本的には)。
それぞれに使い道が異なります。
このときも触診の結果を踏まえてある椎骨を選んで鍼をし、歌ってもらいました。
1か所目のツボはまるで変化なし。
たまたま1つ隣りの椎骨に反応が出ていたので、試しにそちらに鍼をしてまた歌ってもらいました。
驚いたことに格段に響きが増して「イ」がさっきとはまるで別物になりました。
僕も患者さんも同じ変化を認識したので気のせいということはないでしょう。
また続けざまに打った2か所のツボ1つ1つで声出ししてもらったので、椎骨の違いが結果に反映したと考えて良さそうです。
主訴の高音でひっくり返る/返らない問題はこのツボでも一定の成果はありましたが、他のツボも使ってさらに改善したところでこの日の施術はあがりとしました。
それにしても椎骨1つの違いで声に与える影響が異なるのは興味深い現象です。
喉、舌、下顎、軟口蓋など声にはさまざまな要素が関連します。
そのどれがどのような状態のときにどのツボが関係しているか分かったらすごいことですね。
機能性発声障害の方などこれまでも見てきましたが、今回のツボは考えたことがなく今まで使っていませんでした。
研究しがいのある貴重な発見をいただきました。
感謝です。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師