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デルサルトとアレクサンダー・テクニーク

" アレクサンダー・テクニーク "

2019年8月28日

アレクサンダー・テクニークの成り立ちを歴史的に検証しようとする人々の間では、これがデルサルトから何らかのものを継承して発展してきたとするのは定説になりつつあります。

 

では何を継承したのか、というと杳として知れません。

 

デルサルトという人が考えていたこと自体が記録に乏しくてよく分からないからです。

 

限界があることを認めつつ、今の自分の考えをまとめる意味でも書いてみようと思います。

 

フランソワ・デルサルトは19世紀フランスのテノール歌手です。

 

少年の頃から才能を認められますが音楽院の指導法が合わず、声が出なくなります。

 

何とかして声を取り戻すため人の動きを観察し解剖学を学び試行錯誤した結果、再び歌えるようになりました。

 

ここから何らかの方法論を編み出したと思われますが、デルサルトは生涯にわたって探求し続けたため、自分のアイデアが固定化されるのを嫌がり本を残さなかったと言われています。

 

ただ、体の部位を3つに分割する方法論はおそらくずっと共通だったと思われます。

 

3分割とは、頭・胴体・手足といった具合に体を3つに分けるということです。

 

各部分はさらに3分割されて、たとえば頭は上部(目から上)、中部(鼻のあたり)、下部(口から下)に分けられ、その各々がまた3分割される(例:目は瞳、虹彩、白目に分ける、手は掌面、甲面、側面に分ける)といった具合にどこまでも細かくなります。

 

これに3つの動きを組み合わせます。

 

3つの動きとは、外へと広がる動き(excentric)、中へと収れんする動き(concentric)、その場にい続ける動き(normal)です。

 

要は分類の原理ですね。

 

鍼灸でも人の体の状態を、陰陽、表裏、虚実、寒熱という2の四乗(つまり16種類)に分類します。

 

これに臓腑の5とか6、経絡の12などがかけ合わさってあらゆる組み合わせができます。

 

これだけあれば実際に体に起こる現象のほとんどを把握できるだろうということで、観察したことを整理する1つの科学的方法です。

 

もちろん実際には起こりえない、あるいは起こっても意味をなさない組み合わせもあり、そういうのは検討の対象からどんどん外されます。

 

遺伝子でもある組み合わせになると発生がそもそもうまく行かないとか、あるいは形態にも機能にも影響を与えない配列があるじゃないですか、それと同じです。

 

デルサルトも同じ方法論を3という数字で採用していたと言えます。

 

こうすると、単純に機械的に組み合わせを作るだけで、自分では絶対に思いつかないやり方があることに気づくかも知れません。

 

頭=H(Head)、胴体=T(Torso)、手足=L(Limb)に対して、外へと広がる動き=e(excentric)、その場にい続ける動き=n(normal)、中へと収れんする動き=c(concentric)を組み合わせると、

 

HeTeCe、HeTeCn、HeTeCc、HeTnCe、HeTnCn、HeTnCc、HeTcCe、HeTcCn、HeTcCc、HnTeCe、HnTeCn、HnTeCc、HnTnCe、HnTnCn、HnTnCc、HnTcCe、HnTcCn、HnTcCc、HcTeCe、HcTeCn、HcTeCc、HcTnCe、HcTnCn、HcTnCc、HcTcCe、HcTcCn、HcTcCc

 

という27通りの組み合わせができます。

 

デルサルトの場合は頭=論理性、胴体=感情、手足=活動性といった具合に3分割に表現上の性質をひもづけていて、ジェスチャーとその意味することに法則性を持たせようとしたようです。

 

余談ですが、アメリカのコミックなどに見られるような分かりやすい動きと感情表現はデルサルトの影響を今に残していると言えるようです(このあたりは英語ですがこちらのブログに詳しい >>Delsarte Crash Course)。

 

アレクサンダーは声枯れを克服する過程で、頭を後ろに引くのをやめると声の調子も良くなることに気づきました。

 

そこで彼がやってみたのは、頭を明確に前へ動かしてみることでした。

 

実際に、やり過ぎだろ、と思うくらい前に動かしてみて様々な実験をしています。

 

予断を持たず実際にやってみて確認するためのやり方を考えるに当たって、デルサルト的な分割と組み合わせの方法論が使われたのではないか、と思うわけです。

 

ただし、アレクサンダーの場合は感情などの表現上の性質と動きを結びつける方向には行かず、ある動きの取り方が他のそれよりも有利であるとして、機能的優位(mechanical advantage)の観点でまとめ直します(現在のアレクサンダー・テクニーク教師の中にはこの概念を採用しない人もいます)。

 

そして実験を繰り返すうちに、やろうと思ったことをそのとおりにやっていない自分に気がついて、「癖」というものを観察し、その引き金になっているメンタルのプロセスを精緻に見つめ直す方向に向かいました。

 

最終的に彼はメンタルのプロセスをコントロールする方法を確立しましたが、デルサルトにもそのような方向性での発展があったかどうかは分かりません。

 

彼の弟子やその他の継承者の書いた本を読む限りでは、あるようにもないようにも、なんともはっきりとは読み取れませんが、デルサルトの弟がアレクサンダーの出身地タスマニアに移住しており、やはりデルサルトの方法論を教えていたという史実があります。

 

弟のそのまた弟子を通じて、書き残されなかった何らかの方法論が伝えられていた可能性はありますが深層は闇の中です。

この記事を書いた人

2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。

2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。

はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師

 

カテゴリー: アレクサンダー・テクニーク. タグ: .
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