エンド・ゲイニングとは何ぞや?
英国のアレクサンダー・テクニーク教師、ピーター・ノブズの著書 “Mindfulness in 3D” を読みました。
ピーターは昨年来日してBody Chanceで教えてくれた先生です。
日本でアレクサンダー・テクニークというとコナブルのボディ・マッピングを紹介した一連のシリーズ『〇〇ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』があまりにも有名で、動きに関連づけた解剖学とか身体のより良い使い方を教えるものとのイメージがあります。
ピーターはまったく逆の考え方をしていて、ロンドンの彼の学校では解剖学はほとんどやらない(教えるのは環椎後頭関節、胸鎖関節、股関節の3つだけと言っていました)、その代わり思考について深く掘り下げるようです。
身体の使い方に対して名付けるとしたら、思考の使い方を極めた先生と言えるでしょうか。
Body Chanceでも面食らう生徒が続出しました。
でも今、彼の本を読んでみてなるほど!と感心することがいくつかあるので紹介します。
ピーターはこう言っています。
「大事なことだからここで言っておくけど、エンド(目標、ゴール、夢)を持つこと自体はなんら間違ったことじゃないよ。」
アレクサンダー・テクニークの本をいくつか読むと必ず当たるキーワードがエンド・ゲイニング(end-gaining)です。
やってはならないこととして教えられるので、エンドそのものまでいけないものと理解する生徒が出てきます。
音楽の演奏で言えば、出したい理想の音とか、表現したい旋律とか、それがエンドです。
それなしに演奏はあり得ません。
だからエンドを持つことはダメじゃなくてむしろ必要なんですね。
ではやってはならないとされるエンド・ゲイニングとはなんでしょうか?
– 自分がいないどこかにいようとすること
– 自分がいない(今ではない)いつかにいようとすること
– 自分ではない何者かになろうとすること
ピーターはこの3つを例にあげています。
そしてこうなる時は自動操縦モードになっていることが多い、と言います。
ここは音楽家にとっては注意が必要かも知れません。
なぜなら音楽家は何度も反復練習して考えなくてもできるようにする、つまり自動操縦モードでできることを目標に考えることが多いからです。
でもこう考えてみたらどうでしょうか?
楽器の師匠のレッスンを受けていろいろと指導を受けます。
指導されたことは自動操縦モードではできません。
今までのやり方と違うやり方でないとできないからです。
こういう時、自動操縦モードは解除して指導箇所は何度も意識的に練習するはずです。
何度も繰り返すうちにそれが当たり前になってじきに自動操縦モードでできるようになるかも知れません。
で、また師匠のレッスンを受けます。
師匠は前回の指摘がクリアされたのを見て、今度はもっと高みを目指した指導をします。
自分の演奏をもっと良くしたい(そして師匠の指導に自分が納得してそれをやりたい)と思うなら、また自動操縦モードを解除して意識的になる必要があります。
そのうちに師匠が言います。
「もう教えることはなくなった。」
それでも演奏家としてもっと高みを目指すには何をする必要があるでしょうか。
どうしたらもっと良くできるかを自分で考えて、そうできるようになるために意識的に演奏する必要があります。
つまり自動操縦モードはどこまでもアップデート可能ですが、向上心がある限り最先端ではあり得ません。
このように僕は理解しました。
他にも、ノン・ドゥーイング(Non-doing)とノット・ドゥーイング(Not-doing)の違い、指月のたとえなど、含蓄ある考えが述べられていて面白い本です。
いつかまた触れたいと思いますが今日はこのへんで。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師