弾きたい音を奏でるために ~「音楽を楽しんでいますか?」~
好きで楽しいからやっていたものがいつしかつらく苦しいものになることもあります。
そんなとき何を頼りにすればいいのか。
かみさんの道子によるヴァイオリンの方とのレッスン記録です。
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私のレッスンには、ヨガの指導だけでなく、
沢山の音楽家が、
演奏上の課題を持ってきてくれて、
その真摯な姿を見ていると、人の願いの美しさや、
人間が何で動かされているのか、考えさせられます。
演奏は「思い」の結果そのものだからです。
ある日のバイオリン奏者さんとのレッスンは、
その意味で、たいへん興味深いものでした。
「腕全体と弓の動きを連動させたい」という生徒さんだったので、
体の動きからまず提案していきました。
軸の動き、指や腕の動きについて、方法が明確になってくると、
弓の動き、音はどんどん変化していきます。
ただそれでも、何かすっきりしない様子の彼女に、いくつか問いを投げかけてみたのですが、
「どんな音楽にしたいのか?」が。どうしても浮かんでこない様子でした。
そこで、
「どう?最近、バイオリン弾くの好き?」
と思わず聞いてみたところ、
「好きなのかなー。なんだか最近わからなくなってしまって。」
と言葉を濁して顔が曇っていました。
(なるほど、やっぱりそうだったのか。)
モティベーションの低下がそのまま動きと音に現れているのだな、
ということがわかりました。
そこで、思い切って違う提案をしてみました。
「憧れの弾けたらいいなーと思う曲、大好きなバイオリンの曲をちょっと思い出してみようか。」
ええ?と、目を丸くした彼女が、ちょっと考えてから、演奏をすると、
伸び伸びしたバイオリンの音が一瞬にして、流れ出しました。
思わず、一緒に聞いていたグループのみんなと拍手喝采♪の瞬間でした。
練習熱心な方になればなるほど、練習の繰り返しの中で、
楽しみがどこかで薄れてしまうことがあります。
何のための練習なのか、楽しさや情熱がない練習は、
次第に拷問になって痛みややりづらさを生む結果となります。
それはヨガの練習でも同じで、最初は気持ちよく楽しいからやっていたのに、
教え始めると、自分にできないことや、伝わらなさに気づいてしまったとき、
楽しかったヨガが、もはや苦しい、痛いだけのものになり始めるときがあります。
そんなときに大切なのは、「何が好きでやっているのか。何をしたかったのか」
情熱を思い出すことです。
どんな動きや音楽も、自分が望むからこそ生まれる、
それがないと方向性も動きも生まれないからです。
自分がたどり着きたい音楽やヨガが遠くに思えすぎると、ときどき苦しくなります。
でもちょっと「好き」を思い出すだけで、そのエネルギーが一歩、
すでに、自分をそこに近づけてくれるのです。
私も好きへの思い、情熱をエネルギーにしよう!
そう思い出させてくれたレッスンでした。
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元記事のブログはこちら。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師