英国王立音楽大学のアレクサンダー・テクニークことはじめ
以前このブログでご紹介した(>>こちら)イギリスのコントラバス奏者が書いたアレクサンダー・テクニークの本”the alexander technique for musicians”の翻訳版が今度出ます。
著者のジュディット・クラインマンとピーター・バコークはご夫妻で英国王立音楽大学(RCM)で指導しています。
ジュディットはギルドホール音楽院出身の音楽家でもあり以前はプロのコントラバス奏者として活動していたそうですが今はアレクサンダー・テクニークを教えています。
またピーターは現役のコントラバス奏者でもありコントラバスとアレクサンダー・テクニークの両方を教えているそうです。
つまりこの本はコントラバス奏者によって書かれた音楽家のためのアレクサンダー・テクニークの本になります。
ただ、中身は極めて真面目に正統的にアレクサンダー・テクニークについて書かれているので、コントラバス演奏に特化した秘訣のようなものを期待すると裏切られるかも知れません。
英語版の末尾にはRCMでのアレクサンダー・テクニークのレッスン・カリキュラムが載っているので留学など検討される場合には参考になるでしょう。
RCMでアレクサンダー・テクニークのレッスンが始められたのは1950年代初頭にさかのぼります。
F.M.アレクサンダーの直接のお弟子さんだったウィルフレッド・バーロウ博士がRCMに知己を得て教えるようになったのが最初です。
バーロウ博士はそもそも医師で、その奥さんのマージョリー・バーロウもアレクサンダー・テクニーク教師でしたが音楽とは関係ありませんでした。
自分たちのことを聞きつけて若い声楽家が訪ねて来た時、実は自分たちがRCMのすぐ近くに住んでいたことも知らなかった、と書いています。
いろいろないきさつから当時バーロウ博士は医師界の主流から外れされてしまい、町医者として自活しなければならない大変な時期だったようです。
第2次世界大戦が終わってまだそんなに経っていない時代。
医者の仕事もアレクサンダー・テクニーク教師の仕事もそんなに先行き明るいとは思えなかったと書いています。
若い声楽家が訪ねて来たのはそんな時でした。
この声楽家はその足でRCMに向かい、以前習った歌の師匠にバーロウ夫妻のことを話します。
「すぐそこに2人もアレクサンダー・テクニークの先生がいるんだよ」
「アレクサンダー、本で読んだことがあるわ、前からもっと知りたかったのよ!」
ということでRCMの先生たちがバーロウ夫妻のレッスンを受け、ほどなくして彼らは自分の学生を送るようになります。
最初は無償でやっていたようですが、やがて学長も巻き込む形で50人の声楽学生を対象にアレクサンダー・テクニークを教えるプロジェクトに発展。
バーロウ博士はこのプロジェクトの成果を論文にまとめて学会誌に発表します。
また、プロジェクトに参加した生徒からコンクール入賞者が何人も出るようになります。
こうしたことが認められてバーロウ博士は医師としての名誉を回復して国民保健サービス(NHS)にポストを得ますし、アレクサンダー・テクニークは他の音楽学校にも取り入れられて行きます。
苦しい時期に自分たちを認めて招き入れてくれたRCMには特別な思いがあったようです。
すっと後になって著書”More Talk of Alexander”を書いた時に当時のことを”genial air”(優しい空気)と表現しています。
ちょっといい話ですね。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師