人の役に立つためのアレクサンダー・テクニーク
こんにちは!ハリ弟子です。
ロナルド・カヴァイエというイギリスのピアニストがいます。
武蔵野音大の招きで1979年から86年まで日本に滞在し、その間に西山志風という大学教授と対話した記録が『日本人の音楽教育』(新潮社)として出版されています。
この中にアレクサンダー・テクニークについて言及があり、興味深いのはカヴァイエが「近年、英国のピアニストたちがたいへん注目している」と言っていることです。
あとがきによると西山氏との対話は1984年4月から85年11月にかけて行われており、この時点において近年、イギリスのピアニストの間でアレクサンダー・テクニークが注目される状況にあった、つまりそれ以前はそんなに知られていなかったということになります。
カヴァイエの書きぶりをみると、当時大きな期待をもって受け止められていたことが分かります。
アレクサンダー・テクニークのことを話す際、欧米の多くの音楽学校でカリキュラムに組み込まれていることによく触れますが(ハリ弟子もそのようによく話しますが)、当然ながらなんにでも始まりがあるわけですね。
これに関連して思い出すのはやはりイギリスのアレクサンダー・テクニーク教師ヴィヴィアン(Vivien Mackie)のことです。
ヴィヴィアンはRCM(英国王立音楽大学)を首席卒業した後、晩年のパブロ・カザルスに師事したチェリストでもあります。
こんな本を著しています。
どこかで読んだか(あるいは口頭で話を聞いたのか)うろ覚えですが、彼女はアレクサンダー・テクニークを音大などに広めるために無料でレッスンを提供したそうです。
ヴィヴィアンがアレクサンダー・テクニークの教師養成課程に学んだのは1970年から73年のこと。
これより後に音大で無料レッスンをして、そしてカヴァイエがたいへん注目していると言ったのが1984、85年ですから、この間にアレクサンダー・テクニークが広く普及した時期があったと推察されます。
こうした歴史のおかげで後学の我々はだいぶ楽をして人に紹介することができるのですね。
しかしちょっと気になることもあります。
欧米の音大で学んで帰国された方とお話しした時のこと。
当然、カリキュラムに組まれたアレクサンダー・テクニークを経験していますが、こう言われました。
「やったことあるけどよく分からなかった。」
「なんか役に立つの?」
その人たちがどんな先生のどんなレッスンに当たったのか分かりませんが、ハリ弟子なりに思うことはあります。
それは、アレクサンダー・テクニークを教えるのか、アレクサンダー・テクニークで演奏向上のお手伝いをするのか、ということです。
ヴィヴィアンが音大生相手に教え始めた時、そこまで明確に思ってたか分かりませんが、演奏家としての自分の体験からこれが演奏の役に立つと思って教えたのだと思います。
広めたかったのはアレクサンダー・テクニークそのものではなくて、これがつかえる・役に立つということだったのではないか。
教える側の目的がアレクサンダー・テクニークを教えるになると、全然演奏の役に立ってなくてもアレクサンダー的に好ましければそれで良しになってしまいます。
これでは学生もやりたいと思わないし、そもそも音楽学校がカリキュラムにする意味がないですね。そんな義理もない。
欧米の音楽学校にこれが導入されてすでに数十年がたっています。
歴史があるからこれからも安泰ではなくて、これからも音楽学生の役に立つものをアレクサンダー・テクニークで提供し続けないとそのうちに切られちゃうかも知れません。
健康保険の分野では、昨年、オーストラリア政府がアレクサンダー・テクニークを保険適用にするための補助金を廃止する意向を発表しました。
制度に乗っかることで妙な形での存続を図るのは愚です。
シンプルに、人から必要とされるものであり続けることを考えた方が建設的です。
そのために、目の前の生徒さんを理解し、その人のやりたいこと実現をどう手伝えるのか、真剣に考えるためにまずはアレクサンダー・テクニークを使うことから始めようと思います。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師