デルサルトの曼陀羅
こんにちは!ハリ弟子です。
前回は、デルサルトが「3つ」という数字を好んで様々な現象を分類して意味づけしていったことをご紹介しました。
これを進めて、彼はシステムの全容を三角の図形を使って表現するようになります。
その一部に日本語を当ててみました。
まず、目的と手段を対比させ、目的の側に感覚や感情、判断(元の言葉は”Jugement”とあり「認識」の方がふさわしいかも知れません)など、人間の内面に関わること、対する手段の側には発声、運動、発音など外的に表れるものを置いています。
そして人間をこれら全体として捉えるという点で、アレクサンダー・テクニークで言う「心身統一体」的な考え方を先取りしています。
また、運動器官のところで頭、胴体、四肢の3つをあげているのは興味深い視点です。
さらに、このように生徒に教えたと伝えられています。
– la dynamique (expression animique) ou jeu harmonique de ces puissances,
– la séméiotique (expression intellective) ou leur raison d’être.
– 動態(動的表現)あるいは力の調和、
– 記号(知性的表現)あるいは力の存在意義。
これ以上の詳細は分かりませんが、静止と動態のところはおそらく今日の運動学や機能解剖学のような動きの科学を考えていたと思われます。
そして3つ目の記号は、デルサルトがあくまでも芸術表現のためにシステムを考えていたことの証です。
ある特定の動きなり言葉の発し方がどのような感情を表現したものなのか、人の内面と外面の関係性を1つ1つ対応させ、そこに法則性を見出すことが彼の研究の目的でした。
そのため、記号こそが彼にとっては重要だったわけです。
その一方で、記号が形骸化した時、デルサルト・システムが廃れるのもまた必然の流れでした。
アレクサンダー・テクニークとデルサルト・システムの関連性はまだよく分からないことが多いですが、少なくとも、アレクサンダー・テクニークの重要概念のほとんどはデルサルト・システムの中で既に用意されていたことは言っても良さそうです。
もっとも、アレクサンダー・テクニークでは「3つ」で括るまとめ方を解体して、感覚認識や思考、Directive Orderといった別な概念も導入して、ざっくり言うと、デルサルトの図の上半分を再構成して緻密にし、下半分は結果起こることとしてあまり関わらなくしたように見えます(それでも、機能的優位な姿勢など、若干残っているふしはありますが)。
この辺りは、将来、フランスのアレクサンダー・テクニーク教師、ジョアンド・マスエロがつまびらかにしてくれることを期待しましょう。
(つづく)
この話は、フランク・ヴァイユというフランスの研究者の論文に多くを負っています。
原文に興味がありましたら、こちらへアクセスしてみてください。
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2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師