内径の限界に挑む
内径1.8ミリ
日本式の鍼治療では鍼だけ持って皮膚に立てることはありません。鍼管という筒を使います。1.8ミリというのはその管の内径であり、金属製の鍼管における標準的スペックがこの数字です。
実は1.8ミリが理想的でないことは1983年の研究試験によって明らかにされています。
この研究では鍼柄(鍼の持ち手部分)の直径と鍼管の内径ができるだけ近い方が痛みが軽減されるとしていて、内径1.35ミリのとき痛みが小さいと結論づけています。
痛みとは別の問題として、内径の大きな鍼管は鍼の方向がぶれやすいことが鍼師の間ではよく言われていました。鍼柄の直径はだいたい1.25ミリ前後であり内径1.8ミリの鍼管を使った場合、0.5ミリ以上のあそびが生じます。このあそびゆえに鍼管の中で鍼が斜めになって、思ったのと違う方向に鍼が入ることがあります。そうした場合の対処法として、薄皮一枚まで鍼を抜き戻して入れ直す、刺鍼転向法というのを鍼灸学校で学びます。あるいはあえて内径の片側に寄せて鍼をセットし鍼柄を真芯で捉えて弾くなどの対応をします。しかし実際には道具によって解決可能であることは1980年代に分かっていたわけです。
研究用とは言え内径の小さな鍼管を製作してその効果を論じたにも関わらず、細い鍼管は普及しませんでした。内径が小さいと中が掃除しづらく衛生上の問題が生じやすい、また使う鍼の鍼柄のサイズによっては鍼が鍼管を通らないなどの理由を推察します。
ただしこれらは金属製の鍼管の話。論文が書かれた頃はまだまだ金属鍼管が主流の時代でした。現在主流であるディスポーザブルのプラスチック製鍼管においては問題になりません。というのも使い捨てなら衛生上の問題は発生せず、鍼と鍼管をセットで作れば相性を気にする必要もないからです。
そこに現れたのがこちらの鍼。
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— 杉さん@鍼灸と傾聴とデザイン (@eishou8255) June 25, 2021
開発に関わった栗原さん経由で品川の鍼灸院カポスにて触らせていただき、珍しく震えました。比較のために他社のものと並べてみて、一番左が新開発の鍼管です。いかに厳しくあそびを排除したか一目瞭然です。
正直技術的にはプラスチック管の内径を0.01ミリ単位で指定することも可能でしょう、コストさえかければ。実際に医療機器関連の部品でそのような加工を請け負うところはあります。しかしこれが使い捨ての鍼管であることを考えると話が変わってきます。これはちょっと、凄いぞと。
特注や単品で「良い作品」を作るならできて当たり前。それを低コストと高い歩留りで作り続ける覚悟を思うとき、これは鍼師への挑戦状だと思いました。
「内径、内径言うから俺たちはいいものを作った。きみたちはちゃんと使ってくれますか?」
今度は鍼師が答える番です。こういう緊張感は嫌いではありません。これからこの鍼でしっかりと成果をあげていきます。
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2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師