渾身の開魄
先日、ひどい首肩こりに悩むヴァイオリン奏者の方がいらして、整動鍼のツボ「開魄(かいはく)」を使いました。
鍼灸の症例が検索できるツボ辞典『ツボネット』に開魄の位置はこう書かれています。
「足の甲で母指と示指の間で示指よりにある。」
(画像は『ツボネット』から)
この写真を見て鍼灸師なら「太衝(たいしょう)」と違うの?と思うのではないでしょうか。
やっかいなことに太衝は太衝で別にあります。
(画像は『ツボネット』から)
太衝の位置はこうです。
「足の甲で母指と示指の間で母指よりにある。」
さらにまぎらわしいことに足の母指と示指の間には「大腰(だいよう)」という別のツボもあります。
(画像は『ツボネット』から)
「おいおい何の間違い探しだよ」と言いたくなりますが、ツボの作用が違うので分けざるを得なかったようです。
困るのはこういうツボを精確に取り分けないと整動鍼の性能が発揮できないことです。
開魄のつもりが大腰になってたり、大腰のつもりが太衝になってたりするとねらった効果が出せません。
なので僕の場合は開魄を取るなら大腰も取ってそれぞれのコリの感触を確かめて別ものと認識してから鍼をするようにしています。
それでも思ったような効果が出ないことも多々あり、それほど僕の精度ではまだ難しいツボです。
と長い前置きはここまでにして、冒頭のひどい首肩こりに悩むヴァイオリン奏者の方に話を戻します。
この方の場合、首の付け根辺りに特徴的なコリがあってそれが不快感の源になっているようでした。
そしてそのコリの位置が開魄で解消できるものとちょうど同じところでした。
「来たな、開魄・・・」(なんか妖怪みたい)と足の甲を探ると、これまで経験したどの開魄よりも明らかなコリが足の示指よりに見えました。
見えていたらそこに鍼を入れることは造作もないこと。
開魄に渾身の一尖を加えると、うそのように首肩こりが消えて患者さんに晴れやかな笑顔が広がっていました。
「ツボノ精度デコレホドマデニ変ワリマスカ?」(僕の心の声)
僕の触診の技術が上がったというより、たまたまその方のツボが分かりやすくて良い体験をさせてもらったというのが実態でしょう。
その証拠に翌日も他の方に開魄を使いましたが今度は何も見えず、夜間空港に計器頼りで着陸するような感じで鍼を下ろしましたので・・・
あのようにツボが見えることがどれほど大切か教えてもらえた幸運な開魄でした。
願わくばいつもあのくらい見えていたいものです。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師