書を置いて観察しよう
昨日の話に関連してもうひとつ。
「鍼灸は即効性がある」
鍼灸を受けたことのある人でこういうふうに言う人がいます。
僕もそう思います。
一方で当の鍼灸院の側がこう言うこともあります。
「少しずつ体質を改善し時間をかけて根本からなおしていきます」
思いませんか?
どっちやねんて。
鍼の効果は 主訴 ← 体の変化 ← 施術 と昨日書きました。
体の変化 ← 施術 は早いです。
その意味では鍼灸は即効性があると言えます。
しかし 主訴 ← 体の変化 はそうでないこともあります。
体の変化が即、主訴の解消につながる場合は患者さんも即効性を実感できます。
たとえばひどい肩こりの人。だいたい肩がガチガチです。
主訴「肩こり」、付随する体の状況「肩がガチガチ」
とすれば施術は「肩をゆるめるツボに鍼をする」となり、「肩がゆるむ」という体の変化をねらいます。
主訴「肩こり」と体の変化「肩がゆるむ」の距離が近いですね。
これが主訴「突然耳が聞こえなくなった(突発性難聴)」だと少し距離が出ます。
鍼灸師はまず突発性難聴の人に特徴的な体の状況を観察します。
多くの場合、顎関節周辺に強い緊張、首肩に硬いこりがあります。
そのため施術は「それらの緊張やこりをゆるめるツボに鍼をする」ことになります。
その結果の体の変化として「それらの部位がゆるむ」までは触れれば分かります。
あるいは顎の開閉や首の可動域などの動作チェックでも分かるかも知れません。
いずれにせよ体の変化が起こるのは早いし確認も可能。
しかし主訴の聞こえが変化するには、もう少し時間をかけ繰り返し施術する必要があります。
さらに主訴「慢性的な胃腸症状」とか「うつ的な気分障害」になるともっと距離が遠いです。
遠ければ遠いほど難しくはなりますが、やることは以下の2つです。
その主訴の人がどういう体の状態にあるかを観察する。
観察した体の状態から主訴に結びつきそうな特徴的なものをひろい出し、仮説を立ててツボに鍼をする。
整動鍼の場合は 体の変化 ← 施術 のところは技術的に担保されています。
そのため、その主訴を持つ人に特徴的な体の状態を観察したり、主訴 ← 体の変化 の関係性をみたりすることにかなり注力できます。
鍼の基礎技術ってこういうことなんじゃないかって最近は思うんですね。
人はだれしも癖をかかえて生きています。
体を制御する神経系のはたらき方やものごとの考え方にいたるまで癖を持っています。
鍼は(そうと分かっていて使えば)体の状態まではインスタントに変える力があります。
しかしその人自身が体を制御するために発しているオーダーはすぐには変わりません。
体の状態は自分自身のオーダーにしたがってまた戻っていくでしょう。
それに対してもう一度ツボに鍼をして提案するわけです。
「この体の方が楽でしょう?」と。
すべったら「あれ?」と思ってまた観察し、考え直してまた仮説を立てます。そんな繰り返し。
関連記事
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師