東洋医学は美しい
鍼灸の古典理論には現代人には不可解な概念が出てきます。
陰陽五行、相生相克、五行色体などなど。
どこでか忘れましたが、もともとファンタジーゲームの仮想世界が好きな鍼灸師が「この世界はこういう設定」と思ったらすんなり受け入れられたという話を見ました。
なるほどそういう受け止め方もあるのかと新鮮に思いました。
設定だと思えば面倒な要穴表も病攻略のアイテムとして楽しく覚えられそうです。
しかし自然は人間の発想の斜め上を行きます。
ここにアンモナイトがあります。
ふつうアンモナイトといえば巻貝のような形をしています。
ところがこんなめちゃくちゃな形をしたアンモナイトがいました。
実物の化石はこんなです。
発見された当初は奇形と疑われ、今でもふつうに異常巻アンモナイトと呼ばれています。
なんでこんな形なのか長年の謎で、僕が小学生のころの図鑑では進化の隘路におちいった絶滅一歩手前の姿と紹介されていました。
ところがこの姿にも数学的規則性があることが後になって分かっています。
奇形でも進化の隘路でもありませんでした。
「人間の体は美しくできているはずだと思うんです」
整動鍼のセミナーで講師の栗原先生がこんなふうに言っていました。
「数学者が見たら」というただし書きつきで。
ちなみに異常巻アンモナイトがなぜあのような巻きになるのか、大阪大学の先生が分かりやすく解説してくれています。
これを読むと「異常」な貝殻を作る数学と生態の綾に胸を打たれます。
人間もなかなかにへんてこな生き物です。
鍼をしながら人の体をみていると不可解な現象に多く出会います。
あのアンモナイトの形にように意味分からないことだらけです。
観察して確認された現象を矛盾なく説明し、さらに引き延ばすことでまだ見ぬ先の現象を予測できたら、それは間違いなく美しいモデルと言えます。
それが予期せぬ形で古典理論と一致していたら、先人の慧眼に感動するでしょう。
それは哲学的に理解したり、修身してその域に達するとかいうのとは違うと思うのです。
人智を超えたところでしくみとしてすでにあるからおどろき美しいと感じます。
この世界の所与の設定として取り込むのはちょっと保留にして、分からない気持ち悪さそのままにもだえ思考するのも良いではないかと思います。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師