鍼灸は高血圧に効くのか
高血圧に鍼灸は効くのでしょうか?
コクランレビューでは否定されています。
ただしコクランは既存の研究論文に基づいた場合に効くと言えるかどうかを判定するもの。
効くにせよ効かないにせよ、既存論文が主張することの「確からしさ」を評価するものである点に注意が必要です。
実は施術をして翌日あたりに血圧が下がったとのご連絡をいただくことが時々あります。
鍼灸院に高血圧を治しに来る方はほとんどいません(少なくともbodytuneの場合はこれまで皆無でした)。
他の症状、たとえば肩こりでいらした方に話をうかがう中で血圧が高いことが分かり、でも肩こりの施術をします。
そして後になって血圧が下がっていたことが分かる、そういうふうに分かります。
肩こりだと単発の施術になることが多く、再現性が不明でした。
またこちらとしてはねらってやったわけではないので、たまたまラッキーな事例としてあまり気に留めていませんでした。
ところが最近、主訴「高血圧とめまい」でいらした患者さんがいました。
血圧はこれまで薬でコントロールしてきたのが最近のおこもりストレスのせいか増量しても効かず、めまいも併発してひどくなってきたそうです。
めまいに関してはわりと鍼灸の得意分野なので、めまいを良くする施術をして血圧については変化を見守ることにしました。
するとこれまでのところでは、めまいが良くなると血圧も下がるという一貫した傾向の変化がありました。
もともと鍼灸には高血圧という概念がありません。
血圧計が発明されるより前に体系化された医学だからです。
僕が通った鍼灸学校の中医学の教科書では「内容的に類似している症状にもとづいて高血圧症を中医学の「頭痛」、「眩暈」の範疇に~帰属させる」としています(眩暈=めまい)。
またもう1つの古典的鍼灸である経絡治療の教科書では「高血圧症は、その熱が心または肺に多くなった時に現れる。その意味から頭痛や眩暈と同じ病理」とあり、やはり頭痛とめまいが出てきます。
明治から昭和にかけての鍼灸家、澤田健は臑兪と合谷を使ったようです。
特に臑兪は「此の穴が凝っているとときは、必ず後頭部が凝っている」と見ていたようで(代田文誌『鍼灸真髄』医道の日本社)、頭痛、めまい、首肩こりとの関連をうかがわせるツボの選び方です。
深谷灸の場合は「身柱・神道・霊台(不安恐怖)。肩井・膏肓・天柱・風池(頭痛・肩こり)」などを使います。(入江靖二『深谷灸法』緑書房)。
身柱、神道、霊台は不安恐怖に対処するツボとされていますが、胸椎のツボですから首肩こりとも無縁ではありません。
肩井、膏肓、天柱、風池と合わせてやはり頭痛、肩こりとの関連性をにおわせています。
胸椎はまた心臓と肺を納める胸郭の一部です。
呼吸と心拍は連動しています。
呼吸はつまるところ胸郭(+横隔膜)の動きですから、胸郭を動きやすくすることで呼吸が落ち着き、結果として自律神経の働き方が変化し血圧が変わると考えてもそんなに間違いではないでしょう。
鍼が神経を直接刺激することで自律神経を整えるとの考え方もありますが、上記のとおり僕はこれは逆だと思っています。
アレクサンダー・テクニークのディレクションやヨガの瞑想、俳優が役作りに使うスキルは思考やメンタルをコントロールすることで体の状態を変えますが、鍼は体の状態を変えてからその情報を受け取る脳の反応を変えます。
そう考えた方が実態を説明しやすいと思うので。
それはさておき、僕の数少ない経験からも古人の本でも共通して出てくる、頭痛、肩こり、めまいは鍵になりそうです。
頭痛、肩こり、めまいには、それが起こるような特有の筋肉の緊張状態があります。
個別の症状はなんであれ、そういう特有の体の状態があれば、高血圧は鍼で対処できるのではないか。
仮にそうであれば、そういう特有の体の状態を定義することで高血圧の施術成績を向上できそうです。
また逆に鍼では対処困難なケースも早期に判断することができるでしょう。
興味深いお題をいただきました。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師