音楽家の言語表現に鍼灸師が学んだこと
音楽家はよく議論する人たちだと思います。
どんな表現にしたいか、どんな音が欲しいか、言葉で伝える。
やってみて違ったらまた言葉で意見を交わして、そんなふうにして音楽を作ります。
そのせいか音を表現する言葉を豊富に持っている人が多いです。
素人が「いい音」と一言で済ませるところに、プロであればあるほどこだわりがあります。
自然と繊細な違いを聞き分けて、それを生むやり方も使い分けて、人に伝える言葉も言い分けるようになるのでしょう。
なんであれ人にとって大事な物事にはそれを細かく的確に言い表す言葉が発達するように思います。
ひるがえって鍼灸師が言う「気」はどうでしょうか。
あらゆることを「気」で片づける行為はプロとしてはあまりにも雑で素人っぽくないか。
ひところそんなふうに考えて講習会でいろんな先生に尋ねました。
「気が至ったら鍼を抜くと言いますが、それは具体的にはどうなったら鍼を抜いているのですか?」
ある先生は「温かくなったら」と言いました。
またある先生は「フッと柔らかくなる」と答えました。
「首のあたりにゾワゾワッとくる」と答えてくれる先生もいました。
それぞれに何らかの言葉を持っているのですね。
それでも「気」と言いたくなるのはなぜでしょう?
どれだけ言語化しても残ってしまう何かがあるからだと思います。
しかし音楽家はそんなこと百も承知でやっているわけです。
どれだけ言語化しても音楽そのものになるわけありませんから。
そう考えたので、僕は自分の施術において「気」と言う言葉を使わないことに決めました。
そして、個人的には、その方が具体的な行為を選択しなければならない臨床では役に立っています。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師