カラダの地図あれこれ(鍼灸と気功)
鍼灸学校を卒業して一時期、僕は中医系の先生のところで勉強させていただきました。
その中で気功の奇経八脈の考え方を聞いて衝撃を受けたことがあります。
・督脈と任脈は頭のてっぺんで切り替わる
・陰維脈と陽維脈は腕を流れ、陰蹻脈と陽蹻脈は脚へ流れる
・衝脈は脊椎の前側を上に流れる
鍼灸では督脈と任脈の終点の経穴は口と顎です。
陰維脈と陽維脈が腕を流れるという発想もありません。
衝脈は鍼灸では他の経脈と交わったり経穴として体表に表れたり説明が複雑になりますが、気功のは実にシンプルです。
人体をどう見るかのモデル、鍼灸の世界で一番影響力が強いのは経脈です。
これがなければ経穴もないし、そもそも鍼灸が成り立ちません。
だから学校で教わった経脈が唯一絶対だと思ってました。
気功の奇経八脈に触れた時、鍼灸の経脈は内臓や胃腸を調整するための体の見方だと気づかざるを得ませんでした。
督脈と任脈が口のあたりで終わることがすでに象徴的です。
これに対して気功では養生のための鍛錬法として体を動かします。
体を効率的に動かすにあたっては抗重力の作用をうまく起こすことが必要ですから、頭のてっぺんで督脈と任脈が切り替わるところや衝脈の考え方にそれが表れるのでしょう。
そして(おそらくは)経穴をつなぐことにあまり関心を持たない。
この時、運動器系の訴えに対して経脈を使うことに直感的に疑問を持ち始めた気がします。
音楽家向けの治療院をしていると腱鞘炎や筋肉の痛みなど運動器系の症状が多いので、どうにかして対応する必要がありました。
経脈の中には経筋を使った治療法もあるのでそれを学んでもいいはずでしたがやりませんでした。
「経筋」と言っても、そもそも内臓・消化器のための治療システムを無理くり寄せたんじゃないの?という疑問が先に立ってしまったのですね。
学んでないので経筋が有効かどうか語る資格が僕にはありません。
あくまで当時の僕の印象の話です。
この中医系の先生は自分が使ってみて効果を認めたツボしか教えませんでした。
委中の取り方について、学校で教わる委中は刺絡する場合の委中で、鍼で効かせる委中はそこからずらしたところにあるなど、さまざまな建前と本音?を教えてもらい、教科書の鍼灸から僕が目を開くきっかけをいただきました。
時を経て整動鍼のセミナーで、その別説委中が出てくるとは当時は思いもしませんでしたが。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師