使わないツボの話
鍼灸学校の教科書で教えるツボは361個あります。
これだけあるとけっこう全身くまなくツボだらけです。
そうなると一度も使ったことない、というかこれからも一生使わないだろうなってツボも出てくるわけです。
たとえば会陰(えいん)と長強(ちょうきょう)。
お尻の穴の前が会陰、後ろが長強です。
これはまあ場所が場所だけに、、、
あるいは乳中(にゅうちゅう)、乳首の真ん中です。
こんなとこに鍼したら拷問です、、、
ただ、乳中の他にも胸のツボはたくさんあって、肋骨の上の筋肉って自分で押してみると痛気持ちいいんですよね。
でも実際にはほとんど使いません。
女性の場合乳房があるし、男性でも他人に触られて平気な人はあまりいないのでないでしょうか。
気胸(肺に穴があくこと)のリスクもあるので、僕の場合、使うとしても鎖骨の直下と胸骨の上のツボだけです。
361という数字は、中国漢代にまとめられた鍼灸の古典『黄帝内経(こうていだいけい)』のツボの数は1年の日数と同じ365個という記述に由来します。
ところが当の黄帝内経には163個のツボしか載っていないそうです。
調べてみると前胸部肋骨上のツボはほとんどありませんでした。
やはり当時から危険なので使わなかったのか?
365というのは天と人は呼応するという当時の自然哲学を反映して、太陽の周りを地球が一周する日数を人体にも当てはめたのでしょう。
人体を調べてみたら365個あった、というより理論上365個あるはずだ(が今のところまだ163個しか確定していない)と読むのが妥当な気がします。
少し時代を下って三世紀後半の晋代に皇甫謐(こうほひつ)が『鍼灸甲乙経(しんきゅうこうおつけい)』を書きます。
この本ではツボの数は347個に増え、前胸部肋骨上のツボもラインナップに載ります。
365に合わせる努力がなされたのでしょう。
もしかしたら数合わせで持ってこられたツボもあったのでは?と勘ぐかったら性格悪いでしょうか。
例の前胸部肋骨上のツボたちはどうなのでしょうか。
気胸が怖いですが、自分でやってみようかしら。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師