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bodytune(ボディチューン)音楽家のための鍼灸

腱鞘の解剖学(4)ー腱鞘炎のメカニズム

" 体のしくみ "

2017年3月22日

こんにちは!ハリ弟子です。

 

今日はちょっと宣伝から。

 

アレクサンダー・テクニークの学校(Body Chance)でいっしょに勉強している手塚由美さんが、今度、ホルン吹きのためのワークショップをします。

 

なんと、リヒャルト・シュトラウスのホルン・コンチェルト1番をエチュードとして使い、ホルンの基礎を身につけようというアイデアです。

 

社会人になるとなかなか練習する時間がとれません。

いわゆる基礎連とかエチュードはそこそこにして次の演奏会の曲に気がいってしまいますよね。

 

でも、よく考えると、どんな曲でも分解して要素に分けてしまえば、エチュードでやっていることと実は変わりません。エチュードは、1つの要素だけに着目して練習できるよう分かりやすく作られているだけです。

 

そこを逆手にとれば、実際の曲で基礎的な部分も底上げできて、かつ曲も仕上がるという一石二鳥の練習方法があるはず(まあ、アマチュアのホルン吹きでこの曲を実演する人はあまりいないかもですが、、、でも憧れは大事です!)。

 

ということで、4月2日(日)、栃木県宇都宮市です。詳しくは下のリンク先をご覧ください。

 

http://ameblo.jp/yhr-764-yumi/entry-12228807761.html

 

 

さて、本題です。

前回は、腱鞘炎につながる要素として以下の4つをあげ、1と2について書きました。

今回はその続きで、3.傷ができるスピードと傷が回復するスピードのバランスについて取り上げます。

 

1.もともとの腱の太さと線維鞘の内径のバランス

2.滑液の状態

3.傷ができるスピードと傷が回復するスピードのバランス

4.その人の構造・デザインに適した動かし方をしているか

3.傷ができるスピードと傷が回復するスピードのバランス

ヒトの体は常に損傷と修復を繰り返しています。

 

例えば、骨の中にはカルシウムを溶かす細胞とくっつける細胞の2種類があって、骨を溶かすそばから作っていくことで結果的につり合いがとれています。

 

同じことが腱鞘や腱についてもあてはまります。

 

どんなに健康な人であっても、体を動かしていれば腱鞘や腱には細かい傷ができます。ただ、通常の日常生活レベルであれば、傷ができても修復のスピードが十分間に合うので不具合として感じません。

 

この損傷/修復のバランスで損傷の方が修復に勝っている状態が腱鞘炎と言えます。

 

使い過ぎ(あるいは動かし方の問題)の場合は損傷が一方的に勝っていて、食事など栄養状態やホルモンバランスなどに問題がある場合は修復が一方的に負けている状態と言えますが、どちらか一方というよりは両方の要因をある程度ずつ持ち合わせている人がほとんどでしょう。

 

一説では、腱の組織が新しいものと入れ替わるのは1年間でわずか数%だそうです。100グラムの腱があるとしたら、そのうちの数グラム分が過去1年で入れ替わったものということです。

これは人体の他の部分と比べると比較的入れ替わりが遅い部類に入ります。

それだけ丈夫だとも言えますし、反面、治りにくいとも言えます。

 

損傷した腱鞘や腱を修復するためには直すための材料を送り届ける必要があります。また、直すために働いてくれる専門の細胞がいるのですが、この細胞のための栄養も必要です。

工事現場と同じで、セメントや木材などの材料、そこで働く大工さんたちの食事や飲み物を届けないと工事が進みません。

carpenter

材料と働く人が修復に必要です。

指でそれをしてくれるのは血管と滑液鞘です。

 

腱鞘(線維鞘・滑液鞘)は、付近を流れる毛細血管からの栄養供給を受けます。

腱は、中心部分は血管が通っていて、表面に近いところは血管がないと言われており、そのため中心部では血管から、表面部では滑液鞘に含まれる滑液により栄養供給を受けると考えられています。

滑液はもともと血液をろ過した液体ですから、成分としてはよく似ているわけです。

 

こうして材料や栄養を受けて、腱鞘内にいる線維芽細胞(せんいがさいぼう)という特殊な細胞が損傷修復に働いてくれます。

cross-section

栄養供給は(図には描いていませんが)線維鞘周辺の毛細血管と腱の中心を通る血管、それに滑液鞘内の滑液に依存しています。

ここで問題になるのが前回触れた滑液の性質です。

 

・動かさないでいると粘り気が強く(流動性が低く)、動かすとそれに応じて粘り気が弱くさらさらに(流動性が高く)なる

 

・冷えると粘り気が強く(流動性が低く)、温まると粘り気が弱くさらさらに(流動性が高く)なる

 

動かない、冷えた状態でいると滑液の流れが悪くなるということは、損傷修復のための栄養供給が十分にできず、炎症による老廃物を流し去るのも難しくなることを意味します。このような時に急に練習量を増やしたり、大事な本番が重なったりして休みが取れなくなると、損傷が増してさらにリスクが上がります。損傷/修復のバランスで言えば、損傷が勝り、修復が追いつかない状態です。

 

このように考えると、腱鞘炎を予防するためには、手を温めて滑液と血管の流れを良くし、ハンド・マッサージで老廃物をよく流し、修復を促進するためにバランスの良い食事を心がけることが大切だと言えそうです。

 

練習前のウォームアップはゆっくりから入念に、お風呂は湯船につかってしっかりと体を温めるのが良いでしょう。

 

ハンド・マッサージは、自分でやると反対側の手を疲れさせてしまいますので、状況が許せば他人にやってもらう方がいいかも知れません。bodytuneでも、要望に応じてやらせていただいてます。

 

食事は、腱や腱鞘の材料となるタンパク質(肉、魚、大豆、乳製品など)、油は抗酸化作用のある青魚やゴマ油、オリーブオイルなどを、修復を促進するのに必要なビタミンやミネラル(野菜や根菜類)をバランスよく、さらに水分補給もこまめかつ十分にとることが大切です。

 

今回も長くなってしまいました。

次回は、4.その人の構造・デザインに適した動かし方をしているか、を取り上げて腱鞘の解剖学を終わりたいと思います。

 

関連ページ:

腱鞘の解剖学(5)ー腱鞘炎のメカニズム

腱鞘の解剖学(3)ー腱鞘炎のメカニズム

腱鞘の解剖学(2)ー線維鞘と滑液鞘

腱鞘の解剖学(1)

ばね指

腱鞘炎

この記事を書いた人

2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。

2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。

はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師

 

カテゴリー: 体のしくみ.
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