脊椎と指先のリズム
ロック・ミュージックのベースやギターで八分音符を連打するダダダダダというフレーズ、多いですよね。
ある時ベーシストの同一弦上の連打で同じ音価で弾きたいのにリズムが崩れてしまうとの相談を受けました。
人差し指と中指で交互に弾いていましたが、なぜか中指から始めた時は症状が出ず、人差し指から始めた時のみダッダダッダダッと付点のようなリズムになっていました。
中指始まりと人差し指始まりの違いをよく見ると、人差し指始まりの時はわずかに前腕回内が入っていました。中指始まりの時はこの動きが起きません。
②の時は写真のような角度がつくことにより、中指の方が人差し指よりも弦までの距離が遠くなります。仮に指を動かすテンポが①の時と同じだとしたら実際に鳴る音はリズムが変わるはずです。ダッダダッダダッのように。
これを奏法の問題と捉えれば②の時も①の時の角度にすればよいことになります。しかし異なる弦の連打など、指から弦までの距離が同じになるとは限りません。指のテンポをわざとずらして鳴った音でリズムをそろえるテクニックを演奏家は身につけているはずです。本来なら無意識で修正できるでしょう。
増してやこのベーシストはプロでしたから奏法や技術の問題ではなさそう、となると体でなにか起こっている可能性があります。
意外かも知れませんが指の動きに脊柱が絡んでいます。
品川のはりきゅうルーム カポスの栗原院長がやっているYouTubeから引いてきましたが、8分目くらいから手足の動きと脊柱との関わりが触れられています。
特に単純な動きを高速で繰り返す動きでは脊柱の関与が見えやすいです。
楽器は違いますがスネアドラムがロールをしている時に奏者の真後ろから背中を眺めると、脊柱が正弦波のように波打って振動しているように見えます。ロールの速さや音の強弱と脊柱の波の打ち方が相関しているように見えると思います。
この時のコントロールのし方はテンションの張り方だけで結果的に適切な波にするイメージでしょうか。そのため脊柱のどこかに動きの悪いところがあるとそこで波がうまく伝わらず、苦手なテンポやテクニックができたり、あるいは部分だけ取り出せばできるけれどもインテンポの流れの中でできなくなるような技術的な難所につながると考えられます。
ベーシストの場合は片側の手指の問題なので単純な波ではありませんが脊柱に目を向けるのは変わりません。どこかに動きの悪いところがあって指先のリズム調整に困難を生じているものと見ます。
そこで脊椎のそばで硬く張っているところを押圧し、そのままベースを弾いてもらいます。そうするとダッダダッダダッと崩れていたリズムがダダダダダと正確な連打に変わりました。
施術はシンプルにさきほど押圧したところに鍼をして終えました。
生物の体は幾重にもフェイルセーフが施されていてちょっとやそっとで困るようにはできていません。楽器演奏やスポーツ等、精密に同じ動作を繰り返すような必要があって初めてその不具合が表に現れてきます。
そのような不調においては症状が現れる場所を(例えば指を)見るのではなくフェイルセーフの機構そのものを見ることで解決の糸口が見つかることがあります。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師