コントラバス左手のシフト問題
(こちらの記事は、2016年11月まで運用していた旧bodytuneサイトのブログ記事を転載したものです)
コントラバスの左手はけっこう忙しいです。なぜなら人差し指から小指までめいいっぱい使って一音しか(ドからレとか)上がれないし、指板が長いですから。そんなわけで、低い音と高い音を出すのでは、体との関係や力の入る方向性がかなり異なる感覚がします。下の動画はベートーベンの交響曲のオケスタですが、左手は上から下までかなりの距離を飛びまくり、かつ弓と弦の接触が弓先か元弓か、弾いている位置が指板寄りか駒寄りか、などによって体との関係性が刻々と変わる中で巧妙にバランスをとっているのがよく分かります(1分40秒辺りから見ると演奏が始まります)。
今回は左手のシフトに焦点を当てて考えてみます。これまで僕は音を狙うことばかり考えていて、音程が当たらなかった時には手首を無理くり上げ下げしていました。これがシフトの時の癖になってしまい、動かす前から緊張して手首を固めていました。手首を固めると、シフトで手を上下移動する時に弦や指板がうまく手につかず、それを修正するためにさらにまた手首を無理くり動かして、という悪循環にはまります。
では、どうするか?
最初は、ただ腕を体の横にだらっと下げただけの状態からスタートします。この時、コントラバスという楽器を生まれて初めて触るような気持ちで、かつ前腕部分の力は完全に抜いて少しずつ上に上げて行きます。手首はだらっと下がり、まるで幽霊がうらめしや〜とやっている時のあれになりますが、それでいいです。
何とか指板の所まで手を連れてきたら、指には一切力を入れないまま指板上に乗せ、するするとすべらします。上から下へ、また下から上へ。こうすることで、習慣的に培われた指板と手首の関係性をリセットし、新しい関係性で上書きして行きます。次に弦の上に指を置いた状態で上から下、下から上へただすべらします。力はまだ指の力はまだ一切入れないままです。弦との関係性もこれでリセット。
次にいよいよ押弦。もう一度、前腕の力を抜くことを意識して手首の力が完全に抜けたら、緩やかに少しずつ左手の形(いわゆるキツネさんの形?)を作ります。そして、先ほどの要領で弦上に指を置いたら、腕ごと背中からゆっくりと引っ張ります。この段階ではまだ、指、前腕の力は抜いたままです。腕ごと後ろに引っ張られるにつれて、指板に到達するのでそこでストップ。これが、指と弦と指板が出会うためには必要な力とします。ここまで慎重にことを運べば、指が弦を押さえていてかつ手首は適度に力が抜けていて自由に動ける状態を誰でも確かめられると思います。この時の力の入れ具合を一応の理想的なものとして覚えておきます。なに、忘れたら、最初からまたやり直せばいいのです。
以上の状態を維持したまま、腕を上下に動かして指板と弦の上で指をすべらします。これがシフトです。気をつけたいのは、弦のラインを狙って自分で指を動かそうとしないことです。そこのところは既にこれまでのステップで実現されているので、背中から引っ張ることで適度な圧が指から弦と指板に伝わっている状態で、手首の角度や指の形は指板が決める、かつ動かすのはあくまでも腕、と思って上下させてみます。一度やっただけではすぐにまた習慣的なやり方が戻ってしまうので、毎回の練習の際に少しでも時間を取って、楽器と自分の関係性を再確認するこのような練習をします。
これまでのところは、指を指板に乗せる最低限の力で押弦していたので、演奏する上ではこれより大きな力が必要なことは言うまでもありません。押弦に必要な力は音の大きさやピチカート/弓奏なのかでも異なりますが、その都度「必要なだけ」の力を使うようにします。気をつけたいのは、その力が「必要なだけ」かどうかです。必要以上に力を入れても、それは力みや動きの不自由さにつながる可能性が高いため、これまでのプロセスを応用してその時々の演奏に必要な力を確認します。実に遠回りのように聞こえますが、変な癖をつけてその上にさらに難しい技術を構築するよりも、時々、このような練習をして自分の奏法をチェックすることが、オケで取り組んでいる曲の速いところなんかを弾きこなす時に効いてくると思います。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師
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