弦楽器の「腕の重さ」を考える(その3)
こんにちは!ハリ弟子です。
腕の重さを考える3回目、今日は重さという言葉を考えます。
重さを仮に重力だとすると、重力は地球の中心に物を引っ張る力なので、「腕の重さを弦にかける」を文字どおりやるためには弦の上に腕をのせる必要があります。
いや、そういう問題でないってのは分かってます。
あえて書いてみただけで実際はこれのはずです。
実際には腕の重さは弓を介して弦にかけます。
ということは「腕の重さを弦にかける」という言葉は半分くらい比喩(たとえ話)です。
完全に脱力して無力な状態では弓が持てないので、腕の重さを弦にかけるために絶対に力が必要になります。
もしも不必要な力みを取りたくてこの言葉を使う場合は、あくまでも比喩であることを思い出すとこの言葉に固執しなくて済むかも知れません。
比喩は本人がその言葉で「ああ!」と納得して結果もついてくればいいですが、そうでない場合はこだわって言い続ける必要はありません。
だって比喩ですから。
さらに本当のコントラバスを想定して図を描くと重さの方向は青い矢印のようになりますよね。
実際に起こってほしい力の方向が仮に薄い赤の矢印だったら、三次元の中でけっこう複雑な力のコントロールが必要です。
結果としてこういう力が弦にかかるための腕の動きを生み出す関節は、いったいいくつあるでしょう?
上から順に手首までだけでも、胸鎖関節、肩鎖関節、肩甲上腕関節、腕尺関節、腕橈関節、上橈尺関節、下橈尺関節があり、さらに手首と親指、人差し指の関節も弓との関係で重要です。
これだけの関節を使って弦に対して適切な方向の力を加えるやり方はおそらく無数にあります。
そのためには筋肉の力も使うし、関節のテコの原理も使うし、腕の重さも使います。
さきほど半分くらい比喩(たとえ話)と書いたのはこのためです。
物理学的に腕の自重も使えるのは本当なんですから。
さらに弓と手の関係にもテコの原理がはたらくので、弓元と弓先では弦に同じ力を加えるために腕で生じさせる必要のある力の量が変わります。
「腕の重さを弦にかける」の理解としてこれが合っているかどうか分からないのですが、これだけの面倒な話を簡単に一言で済ませてしまってる可能性はないでしょうか。
多分、音大生など身近にしっかりとしたお手本がある場合は、実際にやってることを見て学べるので、言葉とその本来の意味を経験として一致させることができるのだと思います。
しかしその理解のないところで言葉だけを取り入れてしまうと謎の秘技になってしまいます。
ここまで3日に分けて書いてきましたが、結局のところ昨日書いたように
成果として何を求めているのか、
その成果に至るために適切な方法はなにか、
その方法を表現する言葉として妥当なのか(妥当かどうかは相手にもよりますので、流動的です)、
よく言い慣わされた言葉を使う時には考えることが大切だと感じます。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師