体の中の星空ー腸内細菌の世界
こんにちは!ハリ弟子です。
昨日今日は真冬並みの寒気だそうです。
数日前に中国の暦の言葉、「雉入大水為蜃(キジが海に入って大ハマグリになる)」をご紹介して、急に本格的な冬になることを表しているのかも、と書いたばかりでした。
早く布団から出られるように、しっかりした冬物を用意しなければと思うハリ弟子です(まだ出してない、、)。
さて、昨日は土の中の微生物を銀河に見立てた農学者の話でしたが、人の中にも星空があります。
人と共生する微生物、常在細菌の世界です。
土壌微生物の数は1gに1兆と天文学的数字でしたが、常在細菌も100兆を超えると言いますから負けていません。
皮膚に1兆、腸管内に100兆以上いると言われています。
土壌の性質に微生物が及ぼす影響が大きいように、人の健康においても細菌の果たす役割が大きいことが分かりつつあります。
医学でも、細菌を個別に培養するのでなく、集団として分析する手法が開発されてから飛躍的に新しい研究が進んできたようです。
微生物の遺伝子を切り口にしたり、生み出すタンパク質を切り口にしたり、代謝産物を切り口にしたり、最新の研究成果が次々と発表されています。
特に腸内細菌については、関節リウマチ、多発性硬化症、動脈硬化、慢性腎臓病など、従来の発想を超えたところで疾患との関係性が分かり始めています。
これと合わせて、栄養学の世界も変わりつつあります。
かつては腸が吸収できる成分だけを重要視していましたが、現在は、まず腸内細菌がエサとして食べて代謝した上で腸管内でさらに化学変化して人体に有効な栄養素になるものなど、複雑な実態に合わせて学問が変わりつつあります。
10年後の教科書は大きく書きかえられていることでしょう。
東洋医学の世界ではどうでしょうか?
鍼灸医学においては、まず、体を走る経絡に陽明大腸経、陽明胃経、太陰脾経、太陽小腸経など、内臓の名称がついています。
また、お腹を通る任脈と背中を通る督脈という経脈が口で出会うと考えることから、口から始まる消化器官を重視した発想だと言えます。
これは、同じ東洋医学でも、気功の一派の中には任脈と督脈が頭頂部の百会で出会うとする考え方もあることから、あえて内臓の消化吸収能力を重視して経絡をデザインしたと言ってもよいところです。
気功のように自ら体を動かして心身を整える療法では、重力といかに和解するかに目を向けて理論を発展させる必要上、百会で任脈と督脈が出会うデザインがむしろ役に立つのでしょう。
どちらが正しいというのではなく、何をするためにどのように考えると役に立つかで2つの正解が生まれている、と考えるべきかと思います。
内臓重視の鍼灸では、人体をチクワのように見ます。
人間の身体は、皮膚面が口のところで折れかえって消化管につながり、肛門のところで折れかえってまた皮膚面になります。
常在菌もひとつながりで住み分けているのです。
経絡も、内臓の名前がついているにも関わらず、通っている場所が手足だったりします。
これは触診する上では便利なデザインで、お腹の状態が皮膚に表れ、また、皮膚からお腹の状態を推し量ることができるので、手足の経絡上を診ながら、それとセットになった内臓の状態に同時に目を向けられます。
発展した時代があまりに異なるため、「腸内細菌」という言葉こそ使いませんが、むしろそれも含めた全体として体を整える療法として、腸内細菌がすでにビルトインされていると言えないでしょうか。
その分、筋肉の痛みや動きを即効的に改善するには、別な視点を養う必要もありますが、鍼灸はもともと内臓に優しい療法なのです。
腸内細菌の研究はまだまだ始まったばかり。人と共生する細菌の研究が進むことで、鍼灸治療にも新たな発展があるのではないかと期待しています!
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師