触れることの効能
こんにちは!ハリ弟子です。
今日は、軽い皮膚刺激に鎮痛効果があるという研究をご紹介します。
東京都健康長寿医療センターの堀田晴美氏による研究です。
生体に有害な刺激が加えられると、その情報は感覚神経を経由して大脳皮質に送られ、痛みとして認識されます。
感覚神経には、情報伝達の速い神経と遅い神経の2種類があります(堀田氏は「速い神経は新幹線、遅い神経はヒトが歩く程度、のスピードで情報を伝える」と面白い例えをしています)。
例えば、足の小指を角にぶつけたとします。
ぶつけた瞬間に鋭くはっきりと感じるのは速い神経による痛みで、激しいですがすぐにおさまります。
その後、少したってうずくような鈍い痛みが来ますが、これが遅い神経による痛みです。
持続する慢性の痛みは遅い神経によるものです。
ところで、痛みの刺激は中枢の脳に伝えられる際、交感神経に働きかけて心拍を上げるなどの作用もします。
麻酔した動物に痛みとして電気刺激を与えると、神経の伝達速度の違いを反映して、交感神経の活動電位に2つの波が生じるそうです(麻酔した動物を用いるのは、大脳が認識する痛みの感覚や感情その他の影響を排除するため)。
つまり、交感神経の活動電位の波を見ることで、痛みを伝える感覚神経の情報が中枢に伝えられたかどうか推測できるということです。
痛みとしての電気刺激を与える時に、その近くで軽い皮膚刺激も同時に与えておいて、交感神経の波がなくなっていれば、鎮痛効果があったのではないかと言えます。
これは、足をぶつけた時に、ぶつけたところを手でさすったりする我々の日常経験とも合致しますが、実際に鎮痛効果があるのかどうか検証しようというわけです。
皮膚刺激として使われたのは、東洋レヂンという会社が作っているソマレゾンというシール状の治療用品です。
これは、高さ0.3mmのゴムの突起(マイクロコーン)が高密度に敷きつめられたシールで、体に貼って筋肉疲労を取るのに使ったりします。
結果、これを貼ると、交感神経の活動電位のうち、遅い方の波が抑制されることが分かりました。
この反応は、モルヒネを使った時と同じであることから、ごく軽い皮膚刺激によって生体内の麻薬物質(恐らくはモルヒネと同じ作用をもつオピオイド)が体内で放出されるのではないか、と考えられています。
このことから、持続する慢性の痛みの予防に、ごく軽い皮膚刺激で効果が期待できるかもしれない、と堀田氏は結んで、さらに高齢者の頻尿予防や認知症の予防効果についても言及しています。
このような研究が出ると、鍼灸師やアレクサンダー・テクニーク教師が、触診やハンズオンでできることには、まだまだ未知の領域があるという気になります。
鍼灸師の手については、補法(ほほう)の手、瀉法(しゃほう)の手ということが言われます。
その鍼灸師が、患者さんに体力や熱を補う治療が得意か、取り去る治療が得意かという意味です。
補法の手を持つ鍼灸師は、低体温、低血圧、貧血気味のやや弱弱しい人の治療が上手です。
瀉法の手を持つ鍼灸師は、アトピー性皮膚炎などの患者さんに向いています。
努力や訓練とは別の部分で、各鍼灸師のもともとの気質に応じて、補法が得意か瀉法が得意か現れてくると言われています。
こういったことも、もしかしたら未知の原理が働いているのかも知れませんね。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師