どんな鍼が音楽家の体の調整に向いているのか
昨日は整体やマッサージと比べて鍼の方が音楽家の体の調整に適していることをお伝えしました。
では鍼ならどんなやり方でも良いのでしょうか。
そんなことはありません。
一口に鍼と言ってもいろいろなやり方があるからです。
たとえば凝っているその場所に鍼をするやり方。
これでも凝りはゆるみます。
しかし整体やマッサージと同じで外力によって筋肉をゆるめることになります。
そのためゆるみ過ぎるきらいがあるのが欠点です。
またそのときはいいのですがすぐに凝りが戻ることが経験的に分かっています。
あるいは古典の経絡(けいらく)などの理論にもとづいて鍼をするやり方。
一例をあげると背中の凝りに膀胱経上のツボを使うことがあります。
背中には膀胱経という経絡が通っているので、同じ経絡上のツボを使えば良いというのがその理由です。
ただし膀胱経は目頭から頭を通って背中、お尻、足の小指まで長い走行があります。
その中のどのツボを使えば良いでしょうか。
僕は目頭に湿疹があるのですが、あるとき経験豊かな鍼灸師に「膀胱経の最後のツボ、至陰(しいん)を使うといい」と言われ、やってみたことがあります。
至陰は足の小指にあります。
目頭はちょうど膀胱経の始まりの位置なので、同じ経絡の終わりのツボを使うという理屈です。
やってみたのですがついぞ効いた感触は得られませんでした。
古い書物に基づくと言われると凄そうですが実際に効くかどうか検証しないといけません。
そもそも古典的なやり方で効いたとされる事例は慢性的な内臓疾患が多く、僕が多くみているような音楽家の演奏動作に関する症状は適応外なのかも知れません。
経験的にあまりうまくいきませんでした。
そこで今、僕が使っているのが整動鍼というやり方です。
文字通り動きを整えることを得意とします。
どのツボに鍼をするとどの筋肉がゆるむか実際の観察をもとにしているので再現性があります。
整動鍼のツボは凝っているその場所ではなく、鍼をした結果、凝っている筋肉がゆるむところです。
首をゆるめるのに手や足のツボ、手の緊張を取るのに背中をツボを使います。
これらはみな体の自然な反応でゆるむので、ゆるめ過ぎることになりません。
つまりフィット感を残しつつ不要な緊張だけ取れるのですね。
音楽家の仕事内容を考えたときに必要なのは、体が適度に動けるよう調整することです。
そう考えたとき、整体やマッサージよりは鍼の方が適切です。
さらに鍼の中では整動鍼の方法がもっとも適していると考えます。
その理由は以上のとおりです。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師