コンディション・メンタル・制御とマーケティング
「こんな患者さんがいるのですがどう対応していますか?」
鍼灸師が集まるとあるあるな話題です。
先日の練習会でもこのテーマで盛り上がりました。
いろんな話が出たのでどんな症例だったかすでに記憶があいまいですが、「患者さんへの対応」を施術者側が考えるに当たって整理すると良さそうな論点をいくつか思いついたので書いてみます。
とは言うものの経験上こういう試みはたいてい失敗に終わります。
会話にはその場にいた人しか共有されない土台があって、あえて断ってないけど意味幅が限定されてる言葉がたくさんあります。
またその場の雰囲気では強く印象に残ったことでもあとで冷静に考えると「そんなの常識じゃん」という印象に変わることもあります。
そのため文章にするとくどいわりに中身の薄い話になるかも知れません。
それでも今回は自分のためと言い訳して書くことにします。
ふだんなんとなく思っているけどはっきり言語化していなかったものが、人と話したおかげで輪郭がはっきりしてそれを記録しておきたいからです。
練習会では運動関連の主訴がメインだったのでそこからの流れで以下のような観点をあげました。
コンディション・メンタル・制御
患者さんの主訴がもっとも影響を受けていることです(運動関連なので内科系の主訴に対するときには当てはまらないかも知れません)。
コンディションは体の状態。
メンタルは心のガソリンが足りてない状態。
制御は動作のやり方とかコントロールのこと。
このうち鍼が一番得意なのはコンディションを変えることです。
鍼は患者さんの意思に関わらず本当にインスタントに体の状態を変えることができます。
次にメンタルの変化について。
体のコンディションの変化を脳が察知して、メンタルが勝手に上向くこともあります。
しかしこの変化はインスタントではありません。
変わることもあるし変わらないこともある、という程度です。
だからメンタルにまで鍼の効果を期待すると自分の方がつらくなってきます。
それをしたいと思うなら、心理カウンセリングやコミュニケーションなど別のスキルを学ぶ必要が出てきます。
次に制御の問題。
痛みが出る動きや(スポーツの競技などで)うまく行かない動きを自分で正確に再現してやってしまうケースがあります。
これも鍼で体のコンディションを変えることで驚くほど改善することがあります。
体の状態が変わったことを脳が察知して、制御のやり方が変わるのでしょう。
しかしこの変化もインスタントではありません。
変わることもあるし変わらないこともあります。
なのでここまでを自分の仕事の範囲だと思うと無力感を味わうことが多くやはり自分がつらくなるかも知れません。
僕の場合は音楽家のフォーカル・ディストニアにも取り組んでいるのでアレクサンダー・テクニークなど認知と動作を変えるための分野も学んでいます。
そういうことまで対応できなければいけないと考えるとつらくなります。
逆にそういうことをやりたいと思うかどうかで自分の仕事の範囲が変わると考えます。
もちろんやらないという判断もあるわけです。
僕の場合は鍼でやるべき最低限の仕事の範囲は体のコンディションを変えるところまでと考えていて、他は必要に応じて鍼以外の分野から取り入れています。
自分の仕事の境目がはっきりしていたら、次はその間尺に合った患者さんに来てもらうスキルが必要になります。
つまりはマーケティングです。
普通に商売人としてのスキルが必要です(僕も全然備わってませんが)。
その手のコンサルタントもいっぱいいますし。
コンサルタントはお客さんをいっぱいにする方法をよく知っているので参考にしてもいいでしょう。
ただしそれが自分のやりたいことと一致しているかどうかは気をつけたいところです。
僕が尊敬する漫画家の大今良時さんがこんなことを言っています。
(雑誌の)担当さんは人気を取るための方程式を知っているので、それはすごく参考になります。でも ~~~ 作家は、自分の漫画を守らないといけない。もちろん担当さんの意見を聞けば、もっと面白くなる場合もあるので、難しいのですが。
もちろん食べていかなきゃいけないので、技術とやりたいこととマーケティングの間尺は現実に合わせながらでこぼこを調整していくものでもあるのでしょう。
全部がうまく合っていれば楽しく幸せに仕事ができるのだと思います。
僕もまだまだですがこれを理想にがんばっています。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師