クラリネットの替え指と経穴のはなし
同じ音を違う指使いで出すことを替え指と言います。
プロのクラリネット奏者が書いた替え指の記事を読んで目が開きました。
特に上から3段目のシ♭。
たった1つの音に4つの替え指があるんですね。
通常の運指がもう1つ別にあると思うので、少なくとも5つの指使いを使い分けるのでしょう。
これを説明する文章がまた秀逸でどのようなときにどの運指を使うのか、メリットとデメリットがきちんと整理されています。
職業演奏家の世界ではこのくらい当たり前なんでしょうか。
ひるがえって鍼灸師の経穴(ツボ)を考えます。
ツボの位置は標準的なものが定められていて、現在はWHOで2006年に合意された標準経穴部位が使われています。
鍼灸の専門学校で教えられるのもこれだし、ネット上で養生のツボなどとして紹介されてるのも基本これです。
楽器で言えば初心者用教本で一番最初に習う運指と同じです。
違うのは、楽器の場合これで鳴らせますが、ツボの場合これではあまり効かせられないことです。
そのため各鍼灸師がもっと細かく位置を考えたり独自のツボを定めたり、流派によっては同じ名前のツボを別の場所にとったりします。
すると「そういう勝手なことをするのはいかがなものか」といちゃもんをつける人があらわれます。
「医学」として、技術として共通の基盤を持つメリットがありながら、「効くかどうか」について誰もがゆずれない思いがあるのでまとまりません。
実はこういう状況は二千年前から変わっておらず、当時からいろんな地域や流派で別々にツボが定められ使われていました。
それでは混乱して困るというので統一化、標準化してきた歴史があります。
こちらのサイトを読むと紀元前から現代にいたるまでのそうした歴史が概観できます。
話をもとに戻します。
クラリネットの替え指ではどういう場合にどの運指を選ぶかが言語化されていました。
ツボも同じではないかと思うのです。
独自のツボも〇〇流なんとかみたいなツボもどういう場合にどんな効果があるのかきちんと定義すれば良い。
ツボがやたらと増えて困ると言う人もいます。
僕はそうやって定義したツボが再現性をもって効かせられるのなら千でも二千でもいいと思ってます。
同じ足三里でもこの人の症状には「こっち側」に取るとか、同じ太衝でもこの怪我に対しては「あっち寄り」に取るとか実際には誰でも運用してるのではないでしょうか。
そういうの集めたら千くらいあっと言う間でしょう。
効能の及ぶ範囲とそれが発揮される条件が明らかであれば、正解不正解ではなく選択の問題になります。
そういうのは混乱とは呼ばず豊かさだと思いたいです。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師