鍼をして涙がこぼれた話
鍼灸の施術をしていて2度泣かれたことがあります。
いや、変な意味でなく、鍼をしていたら患者さんの目から涙があふれてきたんですね。
最初、痛かったのかな?と思ってそう聞くとそういうわけではなくて、でも悲しい気持ちになったわけでもなく、本人もわけ分かんない。
けど涙がどうしようもなくこぼれてきて止まらない、そんな感じです。
念のため言及すると涙を出すためのツボというのは確かにあります。
鼻の下の人中(じんちゅう)というツボで水溝(すいこう)とも言います。
このツボに、ある特定のやり方で鍼を入れると体の反応として涙が出るのでドライアイのツボとして有名です(ただしけっこう痛い)。
でもこの2回の泣かれたときは人中のそれと違ってぼろぼろとこぼれ落ちるような涙でした(人中の涙はじわーっとにじみ出る感じ)。
アレクサンダー・テクニークのレッスンで先生が手で触れただけで生徒さんが号泣するような場面を僕は何度も目撃しています。
鍼でもこういうことがあるんだと思いました。
アレクサンダーの言葉には “You translate everything, whether physical, mental or spiritual, into muscular tension.” というのがあります。
医学的にきちんと説明がつくとは思いませんが、感情をこらえると筋肉の緊張として翻訳、記憶されるようです。
鍼で筋肉の緊張を解いたことで感情に対する体の反応も封印が解けて涙が出てしまったのだと思います。
ただし元の感情はとうの昔に忘れているので、体の勝手な反応として唐突に涙が出ます。
だから本人の方がびっくりしたくらいです。
我々は社会生活をおくるうえで、赤ちゃんのように感情を素直に体で表現できません。
支障が出るほどの症状として表れる前に折り合いをつけた方がいいわけですね。
鍼灸のそういう効果を知っていて使いこなせるのでしょう、メンタルな症状を得意としてそれを専門にする鍼灸師もいます。
僕はまだ事故的?というかたまたま偶然そういうことがあったというくらいで、スキルになってません。
鍼という道具はその性質上、表裏で言うと圧倒的に表を診て表にはたらきかけるものです。
そうでありながら、裏にあるその人自身のこうありたいというか、もっと楽に生きられるような、そんな方向にはたらきかける技術として表との取り組み方を磨いていくのかなあと思ったりします。
うまくまとまりませんが今日はこのへんで。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師