腱鞘炎・ばね指と背中のツボ
ちょっとおもしろい症例でした。
他の医療機関で右手中指の腱鞘炎ないしばね指疑いと診断されたベーシストの患者さん。
慣れない楽器を使ったことや長時間のリハなどをきっかけに指を曲げづらくなっていました。
自力で曲げてもらうと、中指の第3関節(MP関節)があまり動かず、第2関節(PIP関節)をめいっぱい曲げようとしています。
本人によれば第3関節のところは何かつっかかって曲げにくいとのこと。
次に僕が指を持って他動的に曲げてみます。
痛みがないかどうか声がけして確認しながら慎重にすすめます。
自力でやった時よりも曲がることは曲がりますが、それと同時に右肩にしびれが走ることが分かりました。
このヒントで肩甲骨が後ろに引っ張られているために腕構造の末端で指が曲げづらくなっている可能性が示唆されました。
肩甲骨が動くためには鎖骨の動きをともないます。
また頚椎と胸椎も肩甲骨の動きと密接に協調します。
そこで鎖骨と頚椎、胸椎の動きに関係するツボを選んで施術したところ、若干まだ重さがあるとのことでしたが、本人が思わず笑っちゃうくらい中指を曲げられるようになりました。
同時に元からあったという肩こりについても「肩がふわふわしてなんだか不思議な感じがします~」という感想。
以前にも、フルートのトリルで指が固まってうまく動かないのが背中のツボ1つで治ってしまったりと、指の症状と背中の関係には気づいていましたが、今回は「しびれ」という具体的な感覚があったのでよりはっきりと狙いをつけることができました。
腱鞘炎やばね指は腱や腱鞘の炎症により痛みや動かしづらさが生じるものです。
このホームページでもそう書いています。
しかし背中のツボに鍼で痛みや動きが変わるとしたら話が違ってきます。
いくらなんでも鍼した直後に炎症がおさまるなんてあり得ないからです(しかも場所が別ですし)。
だとするとこの場合の痛みの主原因は炎症ではなく動かしづらさだと考えた方が妥当ではなかろうか。
指を伸ばす側をたどっていくと背中につながります。
背中に不必要な緊張があって肩甲骨を後ろに引っ張っていると指を伸ばす側にテンションがかかり、逆方向の動き、つまり指を曲げようとした時に痛みが増強する、なので背中の不必要な緊張を解除すれば指も動きやすくなり痛みも寛解する、というのが観察した現象をもっともうまく説明できるモデルであるように思います。
アレクサンダー・テクニークの場合は心身両面の操作スキル・技術を向上することで、背中の不必要な緊張を本人が自分で解除できるようにしていきますが、見ているものは同じです。
もちろんすべての腱鞘炎・ばね指がこれで解決するとは言いません。
でも1回か2回の鍼灸で簡単に楽になったというケースでは、このモデル、意外と有効なんじゃないかと思っています。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師