ホルン奏者のアンブシュアのふるえ
先日いらしたアマチュア・ホルン奏者の患者さん。
吹いている時にアンブシュアまわりがふるえることがお悩みでした。
「ふるえ」と表現されているものの中に震えの要素と揺れの要素があり、実際にはそのどちらかなのか、あるいは両方のミックスであることが考えられます。
僕の中の定義では震えは過度に力が入って小刻みに振動する状態。
揺れは拮抗する力のバランスが合わずにあっちに行ったりこっちに行ったりする状態。
揺れの場合はどっちかと言えば力の入れなさ過ぎに起因することが多いです。
患者さんの言葉はどうあれ、術者側はこの2つを弁別している必要があります。
この時は施術前と施術後の演奏動画を撮っていました。
あらためて観ていると今回のケースはどちらかというと揺れの要素の方が多めであるとの印象を持ちました。
でももしかしたらご本人の体感的には力を入れ過ぎと感じていたかも知れず、実際そうした例は多いです。
なぜかというと全体的に緩くなっていると、ある一点だけが頑張らざるを得なくなるからです。
そうするとその一点での疲労感やコリ(場合によっては痛み)だけがクローズアップして感じられます。
筋肉は使えば使うほど反応性が上がります。
これは例えて言うと1.5Vの電池2つで動くモーターが改良されて電池1つでも動くようになるということです。
周りは緩くなっているので3.0Vくらい必要なところ、この一点のモーターは0.8Vくらいでも動くようになってるかも知れません。
この時もっと力を出そうとして9.0Vの負荷をかけたら、0.8Vのモーターは焼き切れます。
実際、もっと力を使ってみたらと提案してこの状態を招いてしまいました。
反省です。
強い疲労感やコリ、痛みとして感じられたと思います。
こうなってしまうと何をおいてもまず、この緊張をいったん解除する必要があります。
そのためこの時は鍼を使って即効的にアンブシュア周りのテンションを変えてしまいました。
これにより今まで発動しっぱなしだった筋肉をリセットして他の筋肉と同等の状態にします。
その上であらためてホルンを吹いてもらってところ「コントロールが効きやすくなった」という感想をいただきました。
施術前はアンブシュアまわりの筋肉の発動が先に(または常に)あってその上で周りの筋肉が働いていた(または働かなかった)のが、施術後は両方が協調して全体としてアンブシュアの機能を形成した、ということだと思います。
特定のある一点が先に発動するのは本人の意思とは関係なく体の状態でそうなってることが多いので、こういうのをアレクサンダー・テクニークで克服しようとすると(できますが)長い期間が必要になります。
鍼の場合は(うまくいくと)スパッと状態をリセットしてしまうので、こういう即効性があるのだなあとあらためて思いました。
しかしより長い目で見ると、意思の力でコントロールできた方がいいのは言うまでもありません。
その後、この患者さんからご連絡いただき、アンブシュアまわりのふるえが戻ってしまいましたので。
とはいえこれはこの方の第1回目の施術。
長年に渡り悩まされてきたふるえですから、1回の施術である程度変えられることが分かっただけでも上出来と言わなければなりません。
これから2回、3回と続ける中でもっと根本的な解決法を見出せるようがんばります!
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師