注文の取り方を失敗した治療
こんにちは!ハリ弟子です。
昨日、鍼灸は「毎回別の患者さんに施術するので、管理されたラボでの実験と違い、初期条件が全部違うところで再現性を追求する科学です」というようなことを書きました。
これについてもう少し考えてみます。
鍼灸学校では病気の治し方を教わります。
病気には名前がついています。
突発性難聴とか尺骨神経麻痺とか肩関節周囲炎とかいった具合です。
東洋医学的に治療する場合でも、肝虚熱証とか脾虚胃実熱証とかの名前になるだけで、あらゆる病気に名前がついていてそれに対する治療法が用意されていることには洋の東西は関係ありません。
患者さんは自分の抱える違和感や不調をどうにかしたいと思ってきます。
で、それをどんな言葉で表現するのか、どの程度までどうにかしたいのか、は全員違います。
カオスな情報そのままでは治療法に結び付かないので、施術者は脈みたり整形外科的なテストをしたりして病名をつけようとします。
ここで患者さんの意図とずれることがよくあるのです。
自分の得意症例だとなおさら、施術者としてはそっちに逃げたくなります。
でも考えてみてください。
温かい釜揚げうどんを期待して待ってたところに冷やし中華が来たらがっかりしないでしょうか?
本格的なインドカレーを食べたいお客さんに本格的なインドカレーを出したけど、期待してたのが辛さレベル5で、出したカレーの辛さが1だったらやはり期待外れではないでしょうか?
こういうことが鍼灸の現場では起こりがちです。
ハリ弟子にもこんな体験があります。
手首が痛くてピアノが弾きづらくなった患者さんがいました。
ハリ弟子はピアノが弾きやすいように動きを改善する意図で鍼をして、結果、動きが良くなりました。
でも痛みはそのまま残っていて、患者さんが不満なまま帰してしまいました。
こんな時、鍼灸師は落ち込んで自己否定的な気分になり、治療技術がまだまだ未熟だったのだ、だからもっと勉強、練習しようと思います。
鍼灸師が間違えるのはここです。
完璧な冷やし中華を作ってもお客さんが欲しいのが釜揚げうどんだったらそれは喜んでもらえません。
冷やし中華の味とは関係ありません。
超本格的な本場のインドカレーを作ったのにお客さんが期待外れな顔をしたのは辛さレベル5が食べたかったからです。
カレーそれ自体には問題ありません。
同様にハリ弟子の失敗治療は治療技術の問題で失敗したのではなく、施術前の注文の取り方を失敗したのです。
だからみがくべきは注文を取るスキルです。
レストランのメニュー選びと違って、治療院の問診はかなりグレーゾーンが広いです。
その中でも患者さんのこれよりはそれ、それよりはあっち、という要望の区別を的確に把握して治療に反映させるのは立派な技術であるように思います。
初期条件が全部違うところで再現性を追求すると言っても、スタートで既にお互いの理解がすれ違っていたら効果の判定ができません。
こればかりは本当に人それぞれなので、毎回、思い直し考え直して患者さんとお話しするようにしています。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師