息は吐いたら自然に入ってくる?
こんにちは!ハリ弟子です。
管楽器のブレスへのアドバイスで、「息は吐いたら自然に入ってくる」という言葉をよく聞きます。
要は自然な呼吸がやっていることを邪魔せず体がやるようにまかせましょうという趣旨だと思います。
ハリ弟子はなかなかそれを腑に落とせずにいました。
まあ分かるは分かるんです。
無意識の呼吸は脳の奥深くにある延髄(えんずい)の支配下にあります。
また呼吸は意図的に止めることができるように意識によるコントロールも可能です。
多くの管楽器奏者がブレスに苦手意識を持つのは、この意識的な呼吸に何か改善の余地があるからなわけです。
でも「息は吐いたら自然に入ってくる」は本当なのか。
延髄の呼吸中枢は血液中の酸素と二酸化炭素の量(分圧)に応じて呼吸運動のリズムや量を決めます。
また体液の酸性・アルカリ性のバランスも呼吸中枢に影響を与えていて、アルカリ側に傾くと自発呼吸が抑制されるといった調整も受けます。
鍼灸学校時代に生理学を教えに来ていた教授が「飲み過ぎで吐いた人はしばらく息が止まる」と言ってたのを思い出します。
胃酸を吐き出すと酸性のものが体から出て行きます。
酸性のものが減るとバランスとして体はアルカリ側に傾きます。
血中の二酸化炭素濃度が上がると酸性の度合いが増してくるので(この辺の化学式は難しいのでパス)、酸性・アルカリ性のバランスを取るために体は息を止めて待つという説明でした。
「自然」と言っても、吐いたら次は吸うみたいな順番の話とも、吐き切ったら吸えるようになるという量的な話ともちょっと違うようです。
そもそも論として管楽器のブレスは呼吸中枢からしたら基本的に不自然な動きです。
オーボエのように息があまり入らない楽器は息が長く、吹いてる最中にどんどん二酸化炭素が発生して苦しくなります。
息を止めて我慢してる状況に近いでしょう。
フルートやTubaのように息をたくさん使う楽器はブレスの回数が多く、肺の中の空気をひんぱんに入れ替えるので酸素の方が多くてくらくらすることもあります。
むしろ過呼吸の状態に似ています。
管楽器奏者がブレスが苦しいと言う時はこのように、楽器が必要とする息と体が必要とする息が同じではないこともからんでいるのではないでしょうか。
なので管楽器のブレスは相矛盾する要求を満たしながら最適な解を見つける立派なスキルだと思うのです。
このことを正面から認めた上で、ブレスする時の具体的な動きとして無意識の呼吸の時に自然にやってることを観察して採用する、ということであれば分かります。
もちろんこのスキルが上達すればするほどそれが「自然」に感じられ、楽になってくると思います。
でも始めから「自然に」と言ってしまうと、出来ている人の「自然」とそうでない人の「自然」がすでにずれているので、教えるためのコミュニケーションの言葉としてはやや注意が必要かもと思う次第です。
2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。
2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。
はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師