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bodytune(ボディチューン)音楽家のための鍼灸

フォーカル・ジストニア

 

来院者

女性 50代 ピアノ

期間

2019年10月

症状

1年ほど前からピアノ演奏時に右手全体がこわばった感じがある。特にアルペジオで指が開きにくくなり、スケールでは第4、第5指が巻き込む傾向が表れた。病院を受診したところ右手のフォーカル・ディストニアと診断された。

施術と経過

施術前に実際にピアノを弾いてもらって動作を観察したところ、手首や鎖骨・肩甲骨と腰椎がもっと動ける余地があると感じられた。触診して調べると右の肩甲骨に強い張りがあり、腰に硬い筋張りがあることを確認。体幹側の動きの制約が末端の手首、指に影響していると推測した。

首や肩の筋肉をゆるめ手首を動きやすくするために腕や背中のツボを使用、また腰の動きにも関連して脚のツボに鍼をする施術を繰り返した。またアレクサンダー・テクニークの観点から、椅子の高さや位置を変えてみて(体全体の演奏姿勢を変えて)右手に変化があるかどうか試行した。実際の本番向きではないかも知れないが、椅子を後ろに引きかなり高くした時に手の違和感がもっとも減少した。

3診目、弾いているときに以前のいい感覚が戻るときがあるとフィードバックをいただく。身体的には肩甲骨の位置を後ろに引いておらず、演奏しながら呼吸できているといいが、思考面で自分へのダメ出しが始まると肩甲骨を後ろに引き込むなど症状が出るときの体の状態に引き戻される傾向があると自ら気がつかれていった。

思考と体の反応との関係性をよく自己観察しておられたので、あとは奏法面での探求を自ら続けていただくことでいったん施術終了とした。

使用したツボ

T2(1.5)R、T6(4)R、合谷R、支正R、曲池R、飛揚L・R

来院者

男性 50代 トロンボーン

期間

2019年10月

症状

2年ほど前から楽器(トロンボーン)をかまえると顔が右を向くようになり、病院を受診して痙性斜頸と診断された。その後、日常動作でも症状が表れるようになり、歯ブラシやコップを口に近づけても顔が右を向く。症状の出方に波があり緊張気味の時などはなにもしていなくても顔が右を向こうとする。また、症状をおさえるべく逆方向に顔を向けるよう力を使うので首や肩が慢性的にこる。

施術と経過

触診すると背中の右側にかたよって強い緊張が見られた(顔が右を向かないように力で左を向かせようとすることに関係すると思われる)。左手でマウスピースを口に近づける動作がもっとも症状が強く表れる。次いで右手、第三者の手の順に度合いが減るが右を向くことには変わりない。動きを細かく観察すると最初に頚椎伸展があって次いで右回旋が起こっている。

上を向いてしまう動きに対して関係する背中のツボに鍼をし、また右回旋の動きについても関係する手のツボに鍼をした。右を向く動きが消えはしないが少し弱まった。他、肩や腰部の緊張に対応したツボに鍼をして、首肩こりは久しくないくらいに楽になったとの感想を得る。

刺激が増えすぎないように鍼灸施術はここまでとした。次にマウスピースを完全に別の物体と思い込んでもらって口に近づけるワークをしてみる。目の前に転がっているものがマウスピースのかっこうをした銀色に輝くプラスチックのおもちゃだと繰り返し言い聞かせてから、手に取って口に近づけてもらった。この時はなにも起こらなかった。が再現しようとすると症状が出る。

痙性斜頸の症例は初めてであり治ったわけでもないが、場面状況やメンタルの状態に応じた体の緊張度の変化、楽器など物に対する思考の反応、思考に対する体の反応など様々な側面からなにが起こっているのか観察し、1つ1つひもといていく必要を感じた。

使用したツボ

渝谷L、合谷L、T2(1.5)R、T3(1.5)R、志室R、築賓R、飛揚L

来院者

女性 50代 ピアノ

期間

2019年6月

症状

10年ほど前から左手の中指を曲げると隣の薬指が伸びてしまうようになった。中指と薬指を同時に曲げようとすると、薬指の2つの指節間関節どちらかが曲がってどちらかが伸びたままで(いわゆる中折れの状態)固まってしまう。病院を受診してフォーカル・ディストニアの診断を受けた。

施術と経過

実際にピアノで演奏動作を確認したところ、見た目からは分かりにくいが本人の感覚としては違和感があるとのことだった。手首や指の動きと関係するツボを触診すると背中に強い緊張が見られた。脊椎のツボに鍼をして再度ピアノを弾いてもらうと、本人の自覚する違和感がかなり減少した。合わせてアレクサンダー・テクニーク的観点から胸椎回旋の動きを練習するよう提案した。

違和感が筋緊張のパターンから生じることはよくある。ピアノ演奏と指の動きに支障を生じる筋緊張パターンがセットで起こるように体が学習していたとすれば、元になっている背中の緊張を鍼で解除することで指が動きやすくなったことのつじつまが合うと考えられる。

フォーカル・ディストニア自体は脳の疾患と考えられており、(もしそれが正しければ)動きの不具合につながる筋緊張を生じるような脳の活動にアプローチしなければならない。しかし同疾患の症状と見なされているものの中には、筋肉の状態を変化させることで一定程度改善するものが含まれているかも知れず、本症例も(長い経過のうちの少なくとも現時点では)その1つと考える。

使用したツボ

玉陽L・R、C7夾脊L、T4夾脊R、T5夾脊R、天髎L

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